01
それはいつも、波の抑揚に合わせて揺れる。
淡く浮かび上がるその姿に、少しだけ寂しさが込み上げてくる。過去の記憶に思いを馳せていると、突然降ってきた元気な声がしんみりとした雰囲気を割った。
「ばあちゃんばあちゃん、あんなところに女の子がいるよ!」
「んあ?」
ばあちゃんばあちゃんねえばあちゃんってばあ!と、とにかく元気な女の子につられて、にゃーにゃーという声。ばあちゃんと呼ばれるその人も手を引かれ、やっとこ腰を上げていた。ご老体よ、子供のお守りは大変ですね。お疲れ様。ぺこりと頭を下げると、おばあちゃんがこちらに目を凝らす。そして持っていた酒瓶を傾け、喉を鳴らした。
「こりゃあ珍しい客人ら‥!」
「‥?」
「相変わらず、元気そうらね」
私の姿を見て、酒瓶がその手から滑り落ちる。
「え、ココロちゃん?!」
どうやら知り合いらしいと話を聞けば、まさかあのココロちゃんだったとは。久しぶりに会ったココロちゃんは随分と丸くなっていた。そして、おばあちゃんになっていた。べろんべろんじゃないの。なんてこった。誰との子供の子?何も変わらない私とは裏腹、ちょっと見ないうちに新情報が多すぎる。
「私、あれから何度か来てたんだよ。いつもアイスバーグにしか会ってなかったけど」
「んがががが、お忍びで来てたんじゃあ仕方ない」
随分豪快な笑いを駅に響かせながら、元気で良かったよとちょっと震えた手で私の頭を撫でてくれた。トムさんとお別れしたあの日からお酒ばかり呑んでいるのはアイスバーグから聞いて知っていた。きっと、私よりもずっとずっと悲しかったはずだ。呑まなきゃやってらんないよ、ってやつだったんだろう。
「それにしても変わらないね」
「ひひひ」
「んがががが!笑い方も、一緒かい」
肩をあげて笑う私の真似をするココロちゃん。昔みたいだねと私も一緒にあの笑い方の真似をした。
「ココロちゃんはあれからどうしてたの?」
「見ての通りさね。このシフト駅で駅長なんてやってるよ」
「さっきからばあちゃんばっかりずるいよ、この子だあれ?」
チムニーと名乗った活発そうなおチビちゃんがウサギみたいなのを連れている。そうだそうだ、つい懐かしい顔と話し込んで自己紹介を忘れてた。
「ココロちゃんとはずっと前からの付き合いなの。よろしくね、チムニー」
「ばあちゃんとずっと前からって、あなたもばあちゃんなの?」
子どもって言うのは実に面白い。常識に捉われないと言うか、素直というか。いくら身体が小さく中身も成長しきれていないとはいえ、正真正銘の子供にはどうやったって敵わない。真っ白、というのはこういうことなんだろうと思う。
「そだね、私もばあちゃんだ!」
「へんなのー!」
「にゃー!」
「仲良くしてね、チムニー。ゴンベも。」
「うん!」
手を差し出せば、きゅっと握られた私と同じくらいの大きさの掌。いつも大きな手に包んでもらっていてばかりだったから、下の海で握る同等の大きさの掌は新鮮で、シワも傷もない綺麗なその掌がなんとも愛おしい。何も知らないその手が、少し羨ましくもなった。
「さ、海列車が来るよ。一緒に見ていくかい?」
「ううん、列車はニューゲートと見るって決めてるから」
「んがががが、その名も久しぶりらよ!」
「ひひ!それじゃあ先に行くね」
今回はニューゲートと来たわけじゃないし、また島で会ったら一緒にご飯でも食べようねと手を振って駅を後にした。ココロちゃんがルフィたちとこの駅で会ったのは、もう少し後のこと。