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「‥マジかよ‥」
「初めてって言い回しも、引っかかる」

金額を知りたいわけではないだろうけれど、ロビンの本心がどこにあるか分からず彼女が本当に知りたいことに添えているのか少しの不安と一緒に素直に言葉を返す。まだその額に馴染みの薄いのか、皆を少し驚かせてしまったらしい。

「偉大なる航路の海軍支部を一つ壊しちゃって、その時に」

あの頃を思い出して若気の至りでしたなあと笑う私と、若気の至りで許されるのかと笑うガンフォール。ルフィの仲間たちは表情豊かに反応してくれる一方で、ワイパーたちは初めてそれを聞いた時と同じようにそれが何だとでも言いたそうだ。この、両極端ともいえる双方の反応の差がまさに、私が空の人に隠し事なしで過ごせる理由であり、この場所が大好きな理由。

「私が持ってるのは、この能力だけだよ。能力があっても制限もいっぱいあるしね。でも、航海だけなら制限はないし、皆より自由に動ける分楽しいよ」
「そうだ、お前今は手配書ないのか?」
「うん、一生懸命頼んだ」
「んなことでなくなるかよ」
「やってみたら?意外となくなるよ」
「そもそもどうやって交渉すんだよ」
「ひひ、海賊じゃあ無理だね」

私は海賊じゃないからと笑い、手配書の話はこれくらいでと勝手に締めて、他に質問は無いかと尋ねてみる。もう手配書の引っ掛かりは解けたのか、ロビンはもう一つ、この島での私の行動について疑問が残ると言った。エネルの能力で倒れる自分たちに私が施したことを見ていたと、そして私があの豆蔓の上から遺跡へ転げ落ちるようにした姿が痛烈な印象として頭から離れないと。特別凄いことをしたわけではない。むしろ力の制御が出来ない失態を利用しただけなのだから、少し恥ずかしい。

「痛みや精神的な負担を軽減しただけで、実際の怪我を治したわけじゃないの。動きたいなら少しでも動けるように痛みを和らげられたらいいなって、休みたいなら少しでも力を抜いて休めたらいいなって、それだけ。」

チョッパーは、この力のことをヒーリング効果というものと似ていると言ったけど、自分ではよく分からない。結局は、皆の想い一つなのだ。すごいのは私じゃなくて、傷だらけでも仲間のために立ち上がろうとする皆の方だ。

「ロビンはあの時、皆を能力で上に運んでくれたでしょ?だから、邪魔しちゃいけないなと思って離れたの」

私は、あの時のことを少しずつかいつまんで説明した。色々な衝撃が重なり、そうでなくても制御が難しいこの地で、制御のことが少し頭から離れていたこと。体温が上がった分だけ能力の制御が弛んで、一定の範囲に能力者が入ると、海に入ったみたいに能力が使えなくなってしまうのだ。時には、身体の自由を奪ってしまうほど。これは能力者であれば実際に体感することだし口外が許されている。

「制御には同等の力が必要だ。ナマエは全て自身で背負い込む悪い癖があってな。」
「お主らも見ただろう。膨大な量を制御する時は決まって血だらけになるほどその手を握りしめる。」
「それでも難しい時は腕を噛んで食いしばる」

インパクトの強い話は、話の軌道変更にはうってつけだ。それをわかっているからか、酋長はわざとそんな風に話を切り出した。カマキリも、私の腕にうっすら残る歯形に視線を落として小さく呟いた。

「そこまでするくらいなら、能力を出してた方がいいんじゃねえのか?今回はロビンの力が使えてありがたかったけど、お前が自分に傷つけてまでしなくても」
「海中なら海が一緒に受け止めてくれるけど、陸だとなかなかね。傷はすぐ治るし、平気だよ。」

能力の仕組みについて詳しいことは話せない。説明できないからではなく、口外を禁止されているからだ。能力が陸地で漏出する時のリスクについては彼らが知る必要はないし、それで彼らに迷惑がかかるのも厄介だと、私も感じている。

「エネルは相性もあるけど、頭が良かった。身体の熱が上がると抑えられないことも知ってたし、一度私の能力を受けただけで策を練ってたから。漏れ出してる能力で彼の能力を無効化できても、流石に既に放たれてる大量の雷を瞬時に避けられるほど身体は軽くなかったし、多少痺れもあった。その一瞬を突いてあの熱伝導の良い金の棒で私を抑えて、直接触れることなく一気に熱を上げたんだよ。流石にあの熱量じゃ私の中もお風呂みたいで、自分でもびっくり。」
「笑い事じゃねえだろ」
「ていうか、ちゃんと説明出来んじゃねえか」
「攻撃されてる時のことだもん。理解しなくちゃいけないし、状況の説明だから。自分の力とはわけが違うよ」

可笑しなことを言うだろ、と酋長やガンフォールは笑うし、ルフィはこういう所は子供っぽくないよなと笑う。

「ただ、遺跡にあれだけの雷が落ちてもこの神殿だけこんなに綺麗に残ってることは、貴方の能力だと考えてるのだけど」
「皆は上に居たでしょ?力になりたくても、身体も動かなくて何もできなかった。それに、力の制御が出来なかったおかげというか、自分の意思だけで出来た事じゃないよ」

幸い遺跡は電気に弱いわけじゃないし都市全部は守れなかったけど、普段では絶対に出ない量の能力が空気中に漏出したことで、あの大きな神殿だけは綺麗なまま残せたのは、私にとっても嬉しい誤算だった。いろんな条件が重ならなくては出来ることではないのだろうけれど、工夫次第で大事なものを守るために出来ることがまだあるんだと、新しいことが出来そうな予感がしたことも嬉しかった。

「シャンディアの皆がずっと探してて、取り返したくて、守りたかった場所なの。私、酋長やワイパーが話してくれるカルガラの話が大好き。だから、私も都市を守りたかった」
「ししし、ちゃんと守れたじゃねえか」
「シャンディアの灯が燈って、島の歌声を聴けたのは皆のおかげ。ね、ワイパー」

ワイパーは、おれに振るなと顔を背けたけれど、嫌な顔はしていなかった。

「私の能力の話は、これでおしまい。本当に、皆ありがとう」
「ありがとうって、おれ達も守られてたんだから礼を言うのはこっちだよ」
「ナマエの力のことは、分かったような分かんなかったような‥」
「泳げる理由や身体能力についての理由は納得した」
「おれは正直、海が自分自身なんて想像が追いつかないぜ」
「ちょっとウソップ、こういう時こそお得意の想像力働かせなさいよ」

ナミは気にしないでと笑うけれど、ウソップの言う通り簡単に想像できるものではないだろう。私も、どういう原理が働いているか説明されても未だに分からないことだらけだ。

「青海の者よ、何も難しい話じゃあない」

それを、酋長はなんて事のない話なのだと言ってくれた。その言葉に同調するように、ガンフォールが口を開いて言葉を繋げる。

「我々は下の海のことは知らないが、ナマエが海を大好きだと言うことは知っている。」
「それから、ナマエが海に愛されてるということも」
「ニューゲートの言葉通りな」

カマキリもワイパーも、彼らに何度も話していたその言葉で、私の能力のことを説明してくれた。空の人々は、私の能力が下の海を渡る上でどれだけの影響があるのかを知らない。私の能力は彼らの背に羽が生えているのと同じようなもので、それがあるからと言ってそれ以上でもそれ以下でもないのだ。

「おれもそれは分かるぞ。海はナマエのことが好きだから、力を貸してくれるんだ」

そして、ルフィも。すっげー奴なんだ、と笑顔を添えたその一言で私の全てを肯定してくれる。だから私は彼と友達になりたいと思ったし、彼に自分の話をしても良いのだと信頼できたのだ。そして、彼のその一言がこの場の誰をも納得させる。その天性の資質は、私の能力なんかよりずっと凄いことなのだと、本人は全く気にも留めていないのだ。彼の言葉に笑顔を零した麦わらの一味は、色々と不思議なことがあってもおかしくない世界だと、彼らもまたルフィに似た気質を少しずつ持ち合わせているのだろうと思った。

「大事なこと、言い忘れてた。」
「何だよ?」
「皆が私の能力を少しでも知ったことは、報告しなくちゃいけないの。多分みんなの懸賞金も、何かのついでに上がると思う」
「「いや先に言えよ!!」」
「皆気にしないかと思って」

ひひ、と笑って見せれば、ルフィもまあいいじゃねえかと言ってシシシと笑ってくれる。ワイパーたちはまだ少し険しい顔をしていたけれど、大丈夫だよと笑えば、ほんの少しだけ、眉間の皺を減らしてくれた。