04
「次の島までは行けそうか?」
「どうせ海軍に寄っていかないといけないから、泳いでいくよ」
「造船島に近付いたら、列車にぶつからねえようなるべく下を行け」
「うん、そうする」
身なりを綺麗にしてもらって、おにぎりをたくさん詰めてもらったお弁当箱を持って私は行ってきますと手を振った。パスミーもその体を波に揺らして、彼らの声に手を振っているようだった。
ねえパスミー、ニューゲートがね。心配事は船に置いて行けって。心配の種がそんなこと言って、本当に置いてったら花が咲いちゃうよ。だからね、代わりに一つ、ベッドの脇に置いてきた。
「さて、と」
今日はどうやって入ってやろうか。正面突破が一番楽だけど、以前それでパスミーを人質に取られたことがあるからそれはダメだ。
「ちょっと行ってくるね。」
本部の船が通りかかるのを待って、その大きな船体に隠れながら一緒に門をくぐる。パスミーを隠すには十分すぎるほど大きな船体。小舟一艘見逃すなんて、ここもまだまだ、詰めが甘い。
「侵入者を捕らえろ!」
勿論、そう甘い話では務まらない。すぐにバレるし、すぐに追いかけっこの始まりだ。けれど、向こうがこの基地に慣れているように、私もこの基地の地図は頭に入ってる。
「早く来ないと大事な部屋に入っちゃうよー!」
すっかり体調も戻って、身体も軽い。追いかけてくるおじさんたちを跳び箱みたいに飛び越え股の下をするりとくぐり抜け、賑やかな道中だ。あと3つ部屋を通り過ぎて、その先の階段を上れば、辿り着く。もうちょっと楽しみたかったけど、残念ながらお部屋についてしまった。そして、誰もついてこない。いつものことだけど。静かになった廊下で、その大きく聳える扉をバシンと勢いよく押した。
「邪魔するぜ!」
「襖に穴を開けて何を言ってる」
横開きの扉はどうも慣れなくて、ついつい押してしまう。左腕だけが先に入室してしまってとりあえず手を振ると、入ってこないかと中から声が聞こえた。自分の開けたその穴から中の様子を覗けば、おせんべいを食べてるガープと、おつるちゃんと、センゴクの視線がその穴を通って私を突き刺している。ヤギちゃんは紙を食べるのに一生懸命だ。
「わっはっはっはっはっ、お前も騒がしいのが好きじゃのう、ナマエ!」
「来る度海軍で遊ぶのはやめなさい」
「襖に穴を開けるのも、いい加減やめんか」
また厄介事が来たぞと言う顔で頭を抱えたセンゴクはそれ以上は何も言わず、ガープのおせんべいの割れる音に怒っている。そのガープは怒られても食べるのを止めないし、私の登場に笑っておせんべいを差し出している。おつるちゃんは易々と侵入されるこの海軍の体制の見直しが必要だと大きくため息をついた。
「‥侵入者は居合わせたガープが確保したと言っておけ」
「ひひ、じゃあガープの膝に座ろうっと」
胡坐を組んでいるガープの膝の上にひょいと飛び乗ると、おせんべいのカスがお尻に刺さった。
「‥ガープ、いっぱいこぼしてる」
「白ひげとて、お前さんのいない所じゃこぼしとるわい」
「えー、そんなことないよ」
イーっと自分の歯を全部見せるくらい横に口を広げてガープの膝を降り、代わりにセンゴクの膝の上に移って、ニューゲートはそんなことしないよと分かったと言うまで何度も言って聞かせた。
「押しが強いのも考えものだな」
「間違いは正さにゃならんって教えてもらったからね」
「‥ああ、そうだそうだった」
センゴクが過去の自分を叱ってやりたいと訳の分からないことを言って再び頭を抱えている間、紙を貪り続けているヤギちゃんの紙の中を覗いた。もうほとんど食べられているけど、あんまり覗いちゃいけなかったようで、報告は、と私の頭を押さえて姿勢を正させる。
「そうそう、報告ね。五老星のおじいちゃんたちの呼び出しは、あと十日くらいで行くって言っておいて」
「すぐそこだ、ついていくか?」
「ひひ、今は行きたくないの。内緒ね」
内緒なんて言う言葉が通る世界ではないけれど、一応付け足してみる。内緒は無理だけれど十日ほどで顔を出すとは伝えてくれるそうだ。これも仕事だと、ため息をつきながらも面倒事を全部背負ってくれるセンゴク。本当に、仏様の様だ。
「もう接触まで時間がない。こちらも最上級厳重態勢を敷いているが」
「ニューゲートは喧嘩する雰囲気じゃなかったよ」
「赤髪はどうした?」
「急いでたから、お手紙だけ置いてきた。シャンも喧嘩をするつもりじゃないから邪魔しないで欲しい、ってさ」
「お前は残らなかったのか。赤髪には最近会ってないだろう?」
「私がいると、話が進まないからって」
「流石、お前のことはよく分かってるな」
「ひどい!」
「わっはっはっは、あやつも過保護じゃのう!!お前を政府の駒にされては敵わんからな!」
一際豪快に笑ったガープは、皆が口にしない言葉も平気で口にする。勿論、場を弁えて。それから、熱いお茶を熱いと飲みながらまた一枚手を伸ばす。
「それともう一つ、報告。空島に行ってきたよ」
「何だ、また力の制御が出来なくなったか?」
「せっかちだね、最後まで聞いてやんな」
そう言ってくれたのはおつるちゃんだ。何をやらかしたか言ってごらん、と言葉を続けて私の次の言葉を待ってくれる。なんとなく想像がついているのか、良い話じゃないことは分かってくれているみたい。
「能力の話、しちゃった」
ごめんねと軽く謝れば、センゴクが私の頭に拳骨を落とした。
「痛い!」
「今更何を。空の者はもう知ってるじゃないか」
「空の者に言ったのではないからわざわざここまで来たんだろう!!」
もう一発ゴチンと私の頭にこぶを増やすセンゴク。
「また痛い!」
「誰に言った!!!」
「‥青海人の友達とその船の人」
「‥もう一つこぶを増やすか?」
「ルフィだよ、ルフィとその仲間!!」
自分の頭を隠しながら目を瞑って叫べば、その間に別のところに拳骨が落ちていたらしく、ガープの悲痛の声が轟いた。孫の代わりにこのおじいちゃんが怒られるのはよくあることだ。
「ルフィはナマエの友達じゃ。五歳で会った時から能力のことは大方知っている」
「‥仲間はどうなんだ」
「大丈夫だよ、ちょっとしか話してないし」
呑気なことを言っている場合かと、もう容赦なく拳を頭に落としてくるセンゴク。アイスクリームのように三つ重なったたんこぶがじんじんと痛みを訴えていた。おつるちゃんに泣きつくと、冷静にあんたが悪いと言葉を落とされる。それでも、年輪の増えた掌で私のことはちゃんと受け止めてくれるのだ。優しいな、おつるちゃん。どこまで話したのかと聞かれ喋ったことを順に指折り思い返して伝えると、海底くらい深いため息がセンゴクから零れた。
「‥また奴らの懸賞額は跳ね上がるぞ」
「アラバスタで懸賞金が上がって喜んでること懸賞金がつかなくて怒ってるような子たちだよ?気にしないと思うけど」
「わしを睨んでも何も出てきやせんぞ」
「そう言えばナマエもアラバスタに居たんだってね。何もしていないね?」
「何かする時はヒナちゃんに言うって約束してるから。ひひ、私を睨んでも何も出な‥痛い!!!」
もう落ちてこないと思っていた拳骨の出どころは、おつるちゃんだ。これは相当まずい。怒ったおつるちゃんには余程のことがない限り言い返せない。センゴクもおせんべいを食べるのを止め、ごくりと唾を呑んだ。間延びした返事を返した私に、言い聞かせるようにおつるちゃんが口を開く。
「いいかい、ナマエ。あの頃とはもう違うんだ。誰と仲良くするのも、友達を大事にするのも自由にしたらいい。ただ、若い芽を育ててはいけないよ。」
「うん、軽率なことしてごめんなさい」
「この海で全てを知るのは白ひげだけ。そう約束したね」
「うん、忘れてないよ」
全てを知るのは白ひげだけ。おつるちゃんの言う様に、そう約束した。それはつまり、センゴクのなもっと上の人だって知らないことがあると言うこと。セイフがそう思っているのかは知らないけれど、少なくともこの三人はそう思っているんだろう。
私は九十度に頭を下げて、もう行くねとおつるちゃんの膝を降りた。
「内緒もなくなってすっきりした!これからパスミーを見てもらわないと」
「W7か?」
「それで急いでいたんだね」
「うん、調子が良くなくて」
「‥あの島へ行くのは、もう少し待てないか?」
「パスミーに無理させちゃってるから、ごめんね」
「いいか。何かに気付いても、何かあっても、手を出すなよ」
「口と足もな」
「んー‥約束は出来ないけど、頑張る!何かしたら報告に来るね」
報告も終えたし皆の元気な顔も見れて用事はすべて済んだ。空島からのお土産を二つおつるちゃんに渡して、私は海軍本部を後にした。