05
「さて、嵐が去ったわけだが」
「わしを睨むなと言うておるだろう」
「また頭の痛い話を持ってきたもんだね」
三人揃って年季の入った溜息を零し、嵐の過ぎ去った穴の開いた襖の向こうに視線をやる。
「‥お前の孫が何も言わないことを願うしかない訳か」
「わしが言うのもなんだが、あまり期待せんこったな」
「笑い事じゃないよガープ」
実際、笑い事でないのは事実だ。彼女が想像も及ばない程膨大な熱量を秘めていること、そして彼女が能力者に与える影響については、貴重な情報ではあるが、彼らに話した大半は他の能力者と似通う部分もあり、取り立てて騒ぐものではない。しかし、ガープの孫は何かと縁の強い男だ。どこで点が線になるかはわからない。それに、あの船は癖者揃い。ナマエのことから地続きに、ガープの孫にも頭を抱えている気分で余計と頭が痛い。
「ナマエの件で彼らの懸賞金を上げるなら、時期は考えなきゃね」
「わっはっはっはっ、待たずともそのうちすぐ何かやらかすわい」
実に楽観的で、それがまた否定も出来ないから一層不愉快だ。今日だけで言えばこちらの異名が拳骨になってもいいくらい、もう何度目かの拳骨をガープの頭に落とす。仲裁の代わりに、おつるさんがナマエからの土産であるトーン貝に徐に手を伸ばした。貝の中心を押せば、そこからは美しく荘厳な鐘の音が部屋中に響き渡る。その後すぐに、シャンディアの灯が燈ったと、ナマエの嬉しそうな声が説明として入っていた。もう一つの土産もトーン貝で、そちらも聞いてみようと今度はガープがその中央を押す。
「ラキ―!お土産手伝ってー!」
「ナマエ!走ると身体に障るよ」
「ははっ、トーン貝なんか持って、また何か始めたな」
「土産って、ニューゲートか?」
「ううん、カイグンの友達。みんなを紹介しようと思って」
「あ!ワイパーがナマエと手繋いでる!」
「アイサ、改めて言ってやるな。ワイパーが照れる」
「カマキリ‥お前」
「ひひ、本当だワイパー耳真っ赤!」
「そう言うのは黙ってろ‥!」
彼らと話すナマエのはしゃぎ声もまた、部屋いっぱいによく響く。年甲斐もなくつい気が緩んで、頬も緩んでいくのは皆同じようだった。空の者と思しき者の名を呼んで、その声に答える彼らも楽しそうに思える。
「空ではこんな風に笑うのか」
「あっちでもニューゲートは知れ渡っているんだね」
「あいつばかりずるいのう」
あいつの周りはいつだって賑やかだ。こちらの状況などお構いなしに、笑顔の種を配り歩いてそれを芽吹かせる。その姿が現れれば、必ず花が咲くと決まっているかのように。枯れた花さえも受け入れて、また新しい命をそこに植えていく。
「‥年を取ると、余計なことを言ってしまうのはどうしたもんかね」
「おつるちゃん、さっきのはナマエのためを思ってのことだろ。それはあいつもわかっておるさ」
おつるさんは彼女の負担がこれ以上増えないといいが、と和らいでいた表情を曇らせ、辛そうに言葉を零した。
「‥あの子、次の島はどうするつもりだろうか」
「奴らは若い。変に触発されないと良いが」
「何かあれば、白ひげが動くやもしれん」
「それはそれで問題だよ」
「しかしなんだ、白ひげばかりに任せておくのは何だかこう、癪だな」
悩んでいても仕方がないと煎餅を一枚掴み部屋を後にしたガープは、笑いながらも余裕がわずかながらに消えていた。続くように部屋を後にしたおつるさんの背中の正義も、襖の穴に全てを映すことなく姿を消していった。