06

「さっきからよ、小さい樽がずっとついてきてる」
「何言ってんだお前」
「おい、小さい樽って言ったか?」
「お頭!ああ、青い丸印がついてる」
「はは、久しぶりだな!引き揚げろ」

お頭はその小さな樽を嬉しそうに抱えると、ナマエだー、と叫んで甲板の真ん中に座り込んだ。

「ナマエか」
「ナマエだ」
「ナマエだな」
「ナマエかあー!」

副船長やヤソップさん達もその樽に引き寄せられるように集まり、樽を開ける瞬間を待ち望むように覗き込んでいる。中から出てきたのは、たった一枚の紙切れ。それがどうしてそんなに嬉しいのか、お天道様に見せつけるように腕を天に伸ばしてから、嬉しそうに声を上げるお頭の声が響き渡った。

「樽だけ寄越して‥何か急いでるのか?」
「お頭が白ひげと接触するから、あいつも忙しいんだろ」

それは、ナマエというヤツからの送り物らしい。普段から人当たりの良いお頭はまだしも、副船長まで優しく笑っていることに、おれは思わず二度見した。

「おい、ここ見ろ!シャンに会いたかった、だとよ!おれもだぜー、ナマエ!」
「おれ達のことは書いてあるか?」
「ルウと一緒におにぎり食べたい、だとよ」
「ナマエ!!いつでも来いよー!」

話題の真ん中のそいつは、お頭のダチなんだそうだ。そう教えてくれた仲間たちもだらしなく頬が緩んでいて、そんなに美人かと聞けば、いい女であることは間違い無いなと豪快な笑いを響かせる。どんな奴なんだ、そいつは。再びお頭へと視線を戻せば、手に握った何かを額に当てて目を閉じていた。その間に紙切れは副船長の元に渡る。それを覗き込んだヤソップさんが、頭を乱暴に掻いた。

「あいつ、一人で行けんのかよ‥!」
「白ひげは船を移したか」
「多分な」
「タイミングが悪かったか?」
「ナマエには悪いことをしたな‥だが、こちらも先延ばしには出来ない」

ナマエが一人で造船島へ行くと、手紙に書いてある

聞き取れた一文は、全く意味がわからなかった。そいつが一人で行くとどうなるってんだ。疑問が口から突いて出る。お頭は気にするなと言うが、先程まで賑わっていた甲板に、少しの緊張が走る。それを解すかのように、ふわりと波に揺れるレッドフォース号。

「ははは、最高だぜ!」
「あいつも元気なようだな」
「気にすんなってよ!」
「あいつが元気じゃない時なんかねえだろ」
「ああ、言えてら」

緩やかな波の揺れが、お頭たちの緊張を連れて行ったかのように。

「帆を畳め!そのまま波に乗れ」

一層の賑わいを見せた甲板で、他の仲間も持っていた酒瓶を空に投げ、肩を組み、うたを唄う。偉大なる航路の波に委ねろなどと、どうして言えるのか。不思議で仕方なかったが、もっとおかしなことに、お頭の言葉を疑う者はおれを含め一人としていなかった。

「おれ達の接触に肩入れして、怒られても知らねえぞ」

船を乗せたその波が的確に白ひげの元へとおれ達を運びきるのをこの身で体感するのは、もう何日か後のことだ。