03

「ところで、ものは相談だが」
「いーやーだー」

パスミーもすぐに良くなると分かりスッキリ晴れやかになった私は、ガレーラのドックまで運んでくれる引き船に一緒に乗って一番ドックへと向かっていた。

「‥ンマー、見せてやるくらいはどうだ」

ちょっとくらい見せてくれてもいいのにな、見るだけなのにな、トムさんすげえだろって教えてやりたいだけなのになと、ぶつぶつ言っているアイスバーグ。私もわざとらしく大きな大きな叫び声のようなため息を聞かせて、ため息のように小さな声で彼のお願いを受け入れた。

「修理はアイスバーグがしてね。皆は絶対見るだけね」
「よく聞かせよう」

交渉成立と時を同じくして、船はドック内部へと続く水路の入り口をくぐり始めた。運び込まれた船と一緒に社長が来たとあって、ドック内は一層の賑わいを見せている。あれを見てください、これを見てくださいと引っ張りだこだ。ドックの入り口で待っていてくれた秘書は、既に職長と呼ばれる職人たちを集めてくれていた。超能力でも使えるんじゃないかと思うほど無駄の無い動きに感心している私の隣で、アイスバーグがパスミーに触れないようよくよく言い聞かせ、皆も約束してくれる。

「それで、この小さい船は誰のなんですか?」
「あー、コイツのだ。」
「この子供の?」
「まさかアイスバーグさんの隠し子か?!」

さっきの青い人も職長だったらしい。最後の言葉に、カリファが無礼ですよと声を上げる。私がアイスバーグの子供だって。繋いでいる手に力が入って、顔を歪めたアイスバーグが、余り冗談は通じない奴だと言いながら涙目で私を見下ろした。

「しかし珍しい仕様の船だな。造りも精巧だ」
「溝彫りと言いグレーチングと言い、最早芸術じゃな」
「ああ。悔しいが見事としか言い様がねえ」
「アイスバーグさん、いつの間にこんな船を」

アイスバーグが造った船ではないと言えば、さらにヒートアップした彼ら。進水してどのくらいだとか、どこで作ってもらったのかとか、自分達の腕より凄い造船技術を持った島なんかないと、彼らもまたこのガレーラと言う看板に誇りを持っていることが伺える。アイスバーグの横顔が、ニューゲートが息子に向けるそれと少し似ていて、ここもまた家族のようなものなんだなと思った。

「大好きな友達に作ってもらったの」

大好きなトムさんが作ってくれた船をみんなが凄い凄いと見てくれるから、私まで誇らしい。トムさん、パスミーは元気だよ。トムさんのおかげで、私もずっと無事に航海しているよ。ニューゲートもパスミーが好きだって。トムさんの話もいっぱいしてるよ。大好きな人に大好きな人の話をすることは、嬉しかった。話しているだけで笑顔になって、パスミーのことももっと好きになった。ひひ、と照れ隠しのように笑って見せる。

「いいか、何度も言うが絶対に船には触れるなよ。死ぬぞ」
「ひひ、気をつけてね」

私の笑い声を添えたアイスバーグの冗談のような本気のようなその言葉に沈黙が流れたのも一瞬のことで、タイルストンと言う男の豪快な笑い声がその一瞬を掻き消していく。そこにはまた賑やかな造船所の活気が戻っていて、頭を掻くアイスバーグもまあいいかと笑いを零した。この後の彼は市長として、社長として忙しく動かねばならないらしい。厳重に船を管理してもらい、私は先にアイスバーグの部屋に戻らせてもらうことにした。

「部屋の場所は分かるか?」
「おれが連れていきますよ、アイスバーグさん。」
「大丈夫、一人で行ける」
「でしたら行き方はこちらをご参考に。中の者に何か聞かれましたらこちらをお見せください。そうすれば、あなたが客人であることがわかるかと。」
「うん、ありがと」

いつ書いたんだと思う程正確な地図を片手に、良く知った本社にある一室へと向かう。なるほど、こういうふうに繋がっているのか。部屋に向かう途中で何人もの船大工にあったが、カリファのくれた紙を見せれば、皆笑って通してくれた。アイスバーグのことを聞けば、皆「あの人は天才だ。憧れだ」と口を揃えて言う。自分のことじゃあないのに、自分の事みたいに嬉しい。どれだけの努力を重ねたのか、彼らの言葉から伝わってくる。きっと、私の鼻はさっき会った職長さんのように長くなっていることだろう。

「なんでお前が嬉しそうなんだ」
「ひひ、子どもの成長を見たからさ」
「ん?子供はお前だろう」
「ひひひ」

変な奴だなあと豪快に笑った男に手を振って、部屋の扉を開ける。整頓された部屋には、幼少期のロビンの手配書が綺麗に貼られていた。なんだ。見たことがあると思ったら、ここでか。
確かに、あの頃私がこれを見ていたら同じように親近感を覚えていたと思う。壁に貼られたその手配書に写る少女の顔を指でなぞって、写真の中の彼女に思いを馳せる。普通の子供が一人で海を渡るなんて、どんな理由でロビンは海に出たんだろう。何を求めて海を渡っているんだろう。

「楽しいばっかりじゃなかっただろうに‥よく頑張ったね、ロビン。」

十秒ほど幼い彼女と勝手に話をして、それから座り心地の良さそうな椅子に腰掛けて。
私はゆっくりと目を閉じた。