抵抗軍へ
「おお! 元気になったんだな! 良かった!」
抵抗軍の本拠地にて、万葉はゴローから歓迎された。
忙しくて鶯宿薬店には行けていなかったが、万葉の体調に関する報告は受けていたので心配していたのだ。
「助けられた時は礼も言えず申し訳なかった」
「あれは一番具合が悪かった時だろう……元気になって姿を見せてくれるだけで充分だ!」
「拙者を運んでくれた者にも感謝を伝えたいのだが……」
「ああ、是非顔を見せてやってくれ」
「……じゃあ、抵抗軍の受け入れは大丈夫ってことでいいのね?」
「コハルも案内ご苦労! 万葉のことは任せてくれ!」
「万葉さん、病み上がりなんですから無理は禁物ですよ」
「わかってるでござるよ」
抵抗軍に馴染めるかはあまり心配していない。
万葉の性格ならどこでもやっていけると思っている。
(……ちょっと、寂しいけど)
万葉がいた部屋の隅には布団が畳まれていて、ガランと広く見えた。
鶯宿薬店には本来患者を預かるための部屋はない。来る客はほとんどが海祇島の、それも望瀧村に住んでいる人たちだった。ご近所さんなので泊める意味はなく、むしろコハルが患者の家に出向くことの方が多かった。
コハルからすれば師匠がいなくなって以来、たまにゴローが泊まる以外では初めて人を住まわせたことになる。
(家、こんなに静かだったっけ……)
万葉だって物静かな方なのに、いないだけで空気が冷えているように感じる。
今晩は飼っている犬を呼んで、一緒に寝ることにしよう。
*
コハルの仕事は変わらないので、数日後には追加の傷薬を持って拠点へ赴いた。
ゴローの話によると、万葉はすぐに馴染むことができた。ゴローと万葉の性格に相性が良かったのか、二人はすぐに意気投合し仲良くなったようだ。
「万葉の話は勉強になるな、今までより柔軟な考えで動けるようになる気がするんだ!」
体力作りの最中ながらもともに戦闘にも参加し、持ち前の剣術や類稀なる聴覚を生かして抵抗軍を勝利へ導いている。おかげで抵抗軍兵士たちの士気はガンガン上がっているのだとか。
「戦力としてずっと抵抗軍にいてもらってもいいくらいなんだが、……まあ、そこは万葉本人が望まないだろうからな……」
それはコハルも理解していた。万葉は一処に留まることを望まないと。
そして万葉は朝から抵抗軍の鍛錬を熟し、夜は浜辺で船を作っているそうだ。
「船!?」
「ああ、脱出するには船がいるからな。さすがに船ひとつ渡すわけにはいかないから工具を貸すことしかできないが……」
「それって……ちゃんと休めてるの?」
「俺もそこが心配だからな、様子を見に行ってみようかと思っている。一緒に行くか?」
「わ、私も行く!」
*
船を作るのは一人でなんとかするつもりでいた。
幸い海祇島には漁業を生業とする者も多かったから、船に関する資料や工具一式を借りることができた。……だからといって簡単に船を作れるようになるわけではなく、体力が要る地道な作業はなかなか進まないでいた。
工具を一旦置いて、大きく息を吐く。
(……それでも、立ち止まるわけには……)
砂浜に横たえた体を起こそうとしたところで、遠くからガヤガヤと喧騒が近付いてくるのを感じた。
「……!」
敵意は感じない。それでも瞬時に体制を整え、刀に手をかける。
……万葉の警戒はすぐに解かれることになった。
「あっ! いた! 楓原さん!」
「楓原さん! 手伝いますよ!」
「……え、」
「こいつ船に詳しいんです! 丈夫な船にしましょう!」
ゴローとコハルが着く頃には万葉の周りには大勢の兵士たちが集まっていた。
船に詳しい者を中心に、どんな形にするかでわいわいと盛り上がっている。
「お前たち! 何してるんだ?」
「ゴロー兄貴! コハルさん!」
「お疲れさまです !ゴロー兄貴!」
「お疲れさまです!」
「おぉ……お疲れ……で、どうしたんだこれは」
「皆で手伝いに来たんです!」
「手分けして作業した方が早くできると思って!」
素直な兵士たちは口々に目的を教えてくれた。
要は皆、万葉の手助けをしたかっただけだ。
「それに、楓原さんが稲妻を出る前に、少しでも剣術を習いたくて……!」
「あっずるいぞ! 俺だって!」
「だから船の方は手伝うんで、良かったらでいいんで、剣のご指導をお願いします!!」
万葉の思っている以上に、彼らに慕われていることを知った。
「ははっ! 大人気じゃないか、万葉」
「ゴロー……」
「みんな万葉の強さに憧れてるんだよ」
「……かたじけない……拙者は皆に助けられてばかりでござるな……よし、拙者の我流剣術が礼の代わりになるかはわからぬが、最善を尽くそう」
「ありがとうございます!」
船は恐るべき速さで完成した。
そして、万葉が旅立つ日が来た。
*20231215