朝が来る




 明け方に雨は止み、ピチョンと屋根から水滴が落ちる音が微かに聞こえる。
そんな優しい音を聞きながら、万葉はこの上なくスッキリとした目覚めを迎えていた。
(……つきたてあつあつの餅になる夢を見た……)
 顔の皮膚がなにやらすべすべになっている。
視界さえ先日より明るい気がする。過度の疲労は目にまで及んでいたのか。
布団の上でぽやんと天井を眺めながら昨晩のことを思い出す。
嵐のせいで眠れないどころか、まるで幼子を寝かしつけるように丁寧に丁寧に撫でられて。
(駄目でござる……これを知ってしまったら……!)
万葉はガバリと起き上がって急いで着替え始めた。
(甘えるわけにはいかぬ!!)
[V:8195]


 外へ出ると、清々しい空気が頬を撫でた。
歌う鳥の声、葉末を伝う露さえも眩しく煌めく。
海祇島の、青や紫の幻想的な木々。
何もかもが新しいもののように見えた。
大きく空気を吸い込み、長く長く吐いていく。
「あ、万葉さん!おはようございます!」
いつものようにコハルが素振りをしている。
「体調はどうですか?」
「コハル殿のおかげですっかり元気でござるよ」
「それは良かったです」

「……コハル殿に、ひとつ頼みがある」
「なんですか?」
部屋から拝借した木刀をすらりと掲げる。
「久しぶりに拙者も体を動かしたくなってしまった。一戦、手合わせ願う」
「いいですよ、望むところです!」
 神の目の使用はなし、あくまで軽い打ち合い、と決めた上で。軽く準備運動をしてから。
「……いざ、参る!」
二人は同時に地面を蹴った。

 ――結果として、勝ったのは万葉だった。
洗練された動きと、圧倒的な速さ。
コハルの木刀はカァンと気持ちの良い音をたてて空高くに跳ね上げられてしまった。
「勝負あり、でござるな」
「んんんんん参りました……」
「…………」
「……大丈夫ですか?」
万葉は自分の体がひどく鈍っていると感じた。
一週間ほど寝込んでいたせいで、こんな簡単な手合わせでも息が上がっている。
(早く……元の調子に戻さなければ……)
朝食を食べながら、万葉は思い切って切り出した。
「コハル殿、拙者はそろそろここを出ようと思う」
「……はい」
「先程の手合わせで実感した。拙者の体は弱りきっていると……」
「私の攻撃を全部軽々と受け切っておきながら……?」
「体力を取り戻さなければ、この先逃げることも難しいであろう……」
「それは……これからどうするんですか?」
「できるならば抵抗軍に受け入れてもらい、鍛え直したいところだが……」
「……わかりました。熱も下がってしばらくたちますし、体調の方は大丈夫でしょう。後で一緒に拠点に行きましょう」




*20231215