旅人
鳴神島で目狩り令が執行されるらしい。
千手百目神像に嵌め込まれる百個目の神の目は雷電将軍が直々に徴収するとのことた。
恐ろしいが、稲妻を守ってくださる統治者でもある雷電将軍を一目見る貴重な機会に、民はこぞって神像の前に集まった。
神の目を持たない大勢の人々にとっては目狩り令など、あまり自分には関係のないこととしか思えなかったのだ。
赤い服の男が天領奉行に連れられて跪く。
男から引き剥がされた神の目が、雷電将軍の掌に収まろうとした時、民衆の中から金色の光が飛び込んできた。
その金色の光こと、旅人・蛍と、ガイドのパイモン。
目狩り令に捕らえられたトーマを助けた後、二人は幕府軍によって追いかけまわされていた。
七神すべてと仲良くできるとは限らないと思っていたし、いずれ戦うことになることもあるだろうと覚悟はしていたが、まさかこうも真っ向から敵対することになるとは。
そもそも旅人は稲妻の情勢に首を突っ込むつもりはなかったのだ。
自分は正義の味方ではないし、出会う人すべてに手を差し伸べられるほどお人好しでも、余裕があるわけでもない。
それでも目狩り令にあった者の末路を知ってしまった今、仲良くなった者が同じような目にあうのを黙って見過ごせるほど非情にもなれなかった。
引きずり込まれた雷電将軍の世界。
そこで受けた『無想の一太刀』。
本気で向かっていっても、その一撃で為すすべもなく倒された。
今でも不意に思い出しては寒気が走る。
(あんなもの、どうやって立ち向かえばいいんだろう……)
まずはトーマの助言に従い、二人は助けになってくれるであろう抵抗軍の情報を探ることにした。
「あっ! おい、あれ見ろ! 誰かが襲われてるぞ! 相手は……幕府武士じゃないか!?助けよう!」
パイモンの声に押されるように、旅人は走り出した。
名椎の浜で、最近前線に配置された哲平という男を助けた旅人とパイモンは、無事に抵抗軍の拠点に辿り着くことができた。
犬耳の大将、ゴローにも抵抗軍への加入を認められ、引き続き哲平の案内で各施設を巡っていく。
「ここが負傷兵営、怪我した兵士が療養してる場所だ。お――い!」
哲平が示した先には入口の外では何人かの兵士たちが雑談していた。
旅人は話を半分聞き流しながら思う。
(哲平の言動って、ちょっと心配になるなぁ……)
話をちょっと誇張しがちというか。
それでも稲妻での理不尽な扱いに少し滅入っていた旅人は、哲平の明るさには少しだけ救われていた。
「聞いた話だけど、オニカブトムシを使った傷薬がよく効くらしい」
ちょっと意識を逸らしているうちに話の内容は何やら怪しい方に向かっていた。
(オニカブトムシを……傷薬に……?)
効くとしても、正直あんまり使いたくない類の薬だ。
「こら!あなた達、中に入りなさいと言ったでしょう!」
負傷兵営の中から飛んできた鋭い怒号に、旅人とパイモンはびくりと肩を跳ね上がらせた。
出てきたのは旅人と同じくらいの背丈の少女だった。
頭に生えた黒い耳が、ついさっき見たものと似ている気がする。
「安静と言いましたよね?早く前線に戻りたいなら治す努力もしてください!怪しい薬も使わない!」
「へ〜〜い」
「すみませ〜〜ん」
兵士たちはあまり気にした様子もなく、じゃあなと言って中に戻っていった。
兵士を中に追い立てた少女は、今度はこちらを見て丸い眉を顰めた。
「哲平さんじゃないですか。また怪我ですか?」
「またって……今日は違うよ。今日は抵抗軍に有望な新人が入ったから、案内してるところなんだ」
「新人……そちらのお二人ですか?」
「そう、こちら、旅人とパイモンだ。二人とも、この人はコハルさん。抵抗軍の臨時衛生兵をやってる」
「よろしくお願いします。怪我や不調の時は私のところに来てくださいね」
建物の中に戻っていくコハルを見送りながら、旅人は「コハルってもしかして」と小さく呟いた。
「そう、ゴロー様の妹さんだよ」
「……なんか、ちょっと厳しそうな人だな……」
ポツリとパイモンが溢す。
「あはは、治療中も好き勝手する奴が多いからね……ちょっと怒りっぽくなってるかも。でも今は怪我人が多いから緊張してるだけで普段はもっと優しい性格なんだ。ちょっと一緒にいればわかるよ」
「……哲平お前、しょっちゅうここでお世話になってるんだな……」
「コハルにも『また』って言われてたしね……」
「そんな、僕がよく怪我してるみたいに言わなくても……うぅ、否定はできないけど……!」
旅人は哲平に抵抗軍での規則などを教わりながらも、いくつかの任務を完了していく。
悪さをする浪人を倒したり、壊れていた外壁を直したりと、忙しくしていた時。
前線に大勢の幕府軍が攻めてきたという情報が入ってきた。
「急いで僕たちも行こう! 間に合えば何か役に立てるかもしれない!」
幕府軍に追われる身の旅人にとってはできるだけ抵抗軍の手助けをしたい。
そのまま張り切る哲平について行くことにした。
*20231215