邪眼
最近妙に疲れてる兵士が多い気がする。
薬の在庫を数えながら、コハルはふと思う。
幕府軍との戦いは続いているのだから、疲れるのは仕方ない。
しかし最近は勝利を収めるようになってきている。
現に、傷薬の減りは少ないのだ。
負傷兵営に来る怪我人の数も減っている。
喜ばしいことの筈だ。
(……でも、何か……)
ゲホゲホと咳をする者だとか。
頭痛や目眩を訴える者だとか。
(風邪が流行ってるとか……? 玲々さんなら何か知ってるかな……)
血の気の多い、体を鍛えることに余念のない、戦いに生きるタイプの兵士たちに多い気がする。
(怪我しても休まないような……)
負傷兵営に来たところでなかなか安静にしない、コハルがいつも頭を悩ませているタイプの者だ。
そんな彼らが怪我で来ない代わりに、疲れが取れないから栄養剤を出してほしいと言ってくることがある。
(働かせ過ぎじゃないのかな……お兄ちゃんにも相談してみようかな)
休みを増やすことは難しいかもしれないが、編成を変えるなり対策はできるはずだ。
*
旅人が任務を終えて報告に珊瑚宮まで戻ると、そこには心海と、ゴローにコハルもいた。
三人とも深刻な表情をしている。
コハルが兵士の不自然な疲れに違和感を抱き、栄養剤を出したところで根本的な解決にはならないとゴローに相談し、隊員への聞き込みをおこなったところ、危険な『秘密兵器』の存在が発覚した。
兵士からなんとか没収したという『秘密兵器』はゴローの手の上で昏く光っている。
謎の支援者によってもたらされたそれを、兵士たちはこっそりと使っていたらしい。
「……これは……邪眼……」
いかにも禍々しい名称の、神の目に似た装飾品。
邪眼――それは使用者の命を削り、力を齎す代物。
使えば簡単に強くなれるが、代償として生命力が奪われ、その身体は痩せ衰え老化していく。
その症状の片鱗を、旅人は近くで見たばかりだった。
「哲平……」
「まだ連絡が取れていない人が何人かいます。もし見つけて……邪眼を使っているようだったらすぐに取り上げてください。可能な限り、治療に当たります」
「わかった! 旅人、行こう!」
ヤシオリ島の、魔神オロバシの亡骸の近くで会った哲平の姿を思い出す。
妙に弱っているように見えたのは祟り神のせいではない、あれは邪眼の影響だと確信した。
前線で活躍することは、後方支援に回されがちだった彼の夢だった。
強くなったと、昇進したと喜んでいたのに。
「急いで哲平を探そう!」
旅人といつか肩を並べて戦いたいと笑っていた哲平の夢は、今終わろうとしていた。
*20231215