負傷兵営



 全ての兵士に邪眼の使用禁止が通達された。
何人もの兵士からそれを強制的に回収し、普段使われている負傷兵営は大勢の兵士が寝かされた。
怪我をしたわけじゃない、最近は勝っていたのだから。
ただ極度に疲弊して、皆が眠っている。
 邪眼の正体を知った者の反応は様々だった。
ショックを受ける者もいたが、それ以上に、邪眼を手放したくない、まだ戦えると主張する者も多くいた。

 ――何人かは、間に合わなかった。
持っている命を全て戦いの為に使い果たし、死んだ。

「もともと命懸けで戦ってるんだ、ちょっと歳を取るだけで勝てるなら安いもんだ」
「そうだ、俺はまだ戦える。まだ抵抗軍のために戦えるんだ」

 コハルの神の目の治癒能力を以てしても、削られた命を元に戻すなど不可能だった。
負傷兵営に詰めていても、何もできることがない。

 皆が眠っている中、ひとりの兵士がポツポツと話し始めた。

「戦っている以上、いつ死んでもおかしくない……だが犬死するよりはせめて一矢報いたいと……それどころか、俺たちは抵抗軍を勝利に導いたんだ……武功をあげて珊瑚宮様やゴロー様に、よくやったって、言ってほしくて……あいつらだって、後悔なんかしてないんだ、勝ったんだから……だからそんな顔するなよ…………理解できないか、こんなの……」
 兵士は皺だらけになった顔を少し下に移し――そして話し疲れたのか、気を失うように眠りについた。


――神の目を持つお前には、
俺たちの気持ちなんてわからないだろう――


一瞬、コハルの帯につけられた神の目を見た彼の表情は、そう言っていた。
(……わかんないよ、そんなの)
神の目を持っていたって、誰も助けられないじゃないか。

コハルには、叱ることも褒めることも出来ない。
みんな、負けて死ぬよりも勝って褒められたかった。
負けて死ぬよりせめて勝ってから死にたかった。
それが命を削る行為だとしても。
個人ではなく組織として戦うのだ。
これは戦争だ。ひとつの小さな戦いでも大きく流れを変えることがある。勝つか負けるかは重要だ。
(それでも、勝った時、そこにみんながいなければ意味が無いのに)




*20231215