天守閣



 夜を待ち、機を見て鳴神島に侵入した、はずだった。
天領奉行の兵士たちは何者かに倒され、抵抗軍は呆気なく天守閣近くまで辿り着けてしまった。
辺りに暗雲がたちこめ、近付くほどにバチバチと雷のような殺気が強まっていくのを肌で感じる。
それでもそのまま突入しようと階段を駆け上がる。
 そこで門から出てきた旅人とパイモンの姿を捉えた。
(良かった! 無事だった!)
先に突入した二人を見て、誰もがそう思っただろう。

「――ッ……!?」
 ほっとした顔を浮かべる旅人と、手を振るパイモンの、背後に、水平に亀裂が入る。
亀裂は膨れ上がり――雷電将軍の、無想の一太刀が、旅人に迫った。

「――あ、……」
 逃れられる筈もない、強大な殺気と鋒。
それは旅人の後ろにいる抵抗軍にも及ぶだろう。
誰も動けない。






『―――いつの日か…』
 
浮かんだのは、いつか友が語った夢だった。

『雷霆に相対する者が』

今、その夢が、目の前にある。

『この地上に現れる』

願いに呼応するように、万葉の背で、雷の光が弾ける。



誰かに背中を押されるように、前へ、飛び出した。





 ――バチバチと激しい音を立てて、万葉の刀が雷電将軍の刀を受け止めている。

 歯を食い縛る。足に力を入れ直す。
刀を持つ腕が痺れて、一瞬でも、気を抜けば押し負ける。

 負けない。負けられない。退かない。
もう誰も、誰も、失わせない。
「……ぐ、うぅ、……っぅぁぁあああっ!!!」
そのまま、刀を振り抜いた。
 雷電将軍が一歩退くのが見えた、万葉は信じられない思いで自分の持つ刀を見た、次の瞬間、万葉の体は返された彼女の刀によって階段下まで吹き飛ばされた。
「万葉!」
「万葉さん!」
ギリギリのところで着地した万葉に駆け寄ると、その前方にカツンと神の目が落ちる。

失われていたはずの雷の光が宿っているのを、確かに 見た。

 光を失った神の目に再び光を灯す。
そんな奇跡のような光景に目を奪われる、だがそれは一瞬だけだった。
 すぐそこに、倒すべき雷電将軍がいるのだ。
今しかない。
兵士たちが互いに顔を合わせ、頷きあう。
「かかれ!!」
ゴローの一声で皆が武器を構えて走り出す。
 
皆の願いはひとつだった。ここで稲妻を変えるのだと。
――願いを受けて、千手百目神像の翼に、光が灯る。


灯る。   



灯る。



灯る。





 だがその刃が彼女に届くより前に――
旅人が走り出す。
雷電将軍は旅人だけを自身の世界へと吸い込み、ふたりの姿は消えてしまった。




*20231215