決着



「いたぞ!」「抵抗軍だ!」
階段の下が俄に騒がしくなる。
「……天領奉行の連中か!」
戦う相手を失い祈るしかできなかった兵士たちは一斉に武器を構えた。
すかさずパイモンが止めにかかる。
「わぁ!待て待て! こんなところで戦う意味なんてないだろ!」
「だが……」
「そ、そうだ! 裟羅が、九条裟羅が上で倒れてるんだ!助けに行ってやってくれよ!」
「何!?九条様が!?それは本当か!?」
天領奉行の兵士がサッと顔色を変える。
「オイラ嘘なんかつかないぞ! ファデュイの執行官にやられたんだ!」
「……一時休戦だ! 我々は九条様を助けに行く!」
「おいチビ! 嘘だったら承知しないからな!」
「誰がチビだ!!!」
 仕方なく天領奉行が天守閣の中へ駆け込んでいくのを見送った。
抵抗軍は、いつ戻ってきても応戦できる姿勢で待ち構える。
――しばらくして、九条裟羅に肩を貸す兵士たちが戻ってきた。
不本意だが、コハルは九条沙羅に駆け寄る。
「……治療します」
「ッ抵抗軍の施しなど……!」
「あぁ、ここで我慢すれば負けた時に言い訳できますもんね!」
「……貴様が信用ならないと言っている!」
「怪我人を陥れるほど腐ってませんよ。……それに、今の私たちは敵ではありません」
 旅人も雷電将軍もいない今、もはや戦う意味などない。
それでも尚目を逸らそうとする裟羅に、ゴローも助太刀に入る。
「……そうだな、俺たちが戦うべき敵はまだ稲妻にいる。次に戦う時のために、万全にしておくべきだ」
稲妻の治安を乱し、陥れようとした者たち――ファデュイはまだ、あちこちに巣食っている。
それは天領奉行を取り仕切る、九条家にも。
「九条家はあなたにしか正せないでしょう?」
二人は静かに、正面から目を合わせた。
「…………いつか借りは返す」

「ふふ、恩を売るのは実に気持ちがいいですね!」
「貴様ッ! こちらが譲歩してやったと思ったら!!」





長く感じる、ひどくもどかしい時間を経て……空間が開き、旅人が生きて姿を現した。
パイモンが泣きながら飛びついた。
雷電将軍はいない。旧い友と長い長い話をするらしい。
「……旅人……勝った、のか……?」
ゴローがおそるおそる問う。
「届いたよ、みんなの願い」
旅人は傷だらけだったが、笑った。



 人間と違い永き時を生きる雷電将軍は、夢を追い求める中で数多の大切な存在を失ってきた。
夢を追うことは、何かを失うこと。
 ならば夢を追わないことこそが、何も失わないための、永遠を実現する術なのではないか。
『前進』ではなく『静止』。いわば『停滞』だった。
黙認した目狩り令――夢の象徴である神の目を取り上げる行為――は、雷電影が彼女なりに考えた、民を守る想いだった。

 旅人が勝ったことで、雷電将軍は目狩り令を廃止した。
だが廃止を決めたのは旅人と八重神子の計画に負けたからであり、『停滞』をやめたからではない。
まだ彼女も前に進むには躊躇いがあるようだ。


幕府と海祇島は後日和平協定を組むための話し合いをすることとなった。
追われていた者は平和を取り戻し、海祇島に避難していた者たちもだんだんと帰っていった。
 幕府側も、抵抗軍も、多くのものを失った。
今は一旦戦う理由がなくなったが、完全に信用することはできない。
何か小さな火種でもあれば、また戦いは始まる。
稲妻の情勢の混乱はまだしばらく続くだろう。

 それでも、雷電将軍の心を開いたことで、稲妻は一歩、前に進むことができた。
人々は守るべき弱き存在ではなく、ともに歩む存在だと。
亡くなった者には魂の安寧を祈り、生き延びた者は稲妻が良くなることを願って手を取り合う。
痛みがいつか癒えるのを待つしかなくても、完全な平和が来ることがなくても。



乗り越えて、『今』を、生きるしかない。




*20231215