見送り
あの日ひっそりと万葉を見送った浜辺とは違う、南十字船隊・死兆星号が停泊する離島の船着き場。
今は波の音に耳を傾けるくらいに心の余裕がある。
巨大な船を見上げながら、万葉はコハルと最後の挨拶をした。
「……もう行っちゃうんですか?」
「友の墓参りも済ませ、もう心残りはない。姉君の仕事を遅れさせるわけにはいかないゆえ、もう行かなければなるまい」
「また稲妻に、帰ってきますよね?」
「勿論でござるよ。目狩り令が無くなり、拙者の指名手配も解かれた。拙者を追う者はもういない。だからこそ、拙者は何者にも追われることなく旅がしたい」
南十字船隊が、今の万葉の居場所なのだろう。
「……そうですね。万葉さんは、自由にしてるのが、一番似合います」
大きな船の見張り台で、風に吹かれて気ままに草笛を吹きながら航海する万葉の姿が、簡単に想像できた。
「死兆星号が稲妻を訪れる時は、また会いに行っても良いだろうか?」
「はい、是非! むしろ稲妻に帰ってきたのに会わずに行っちゃうなんて許しませんよ!」
その辺りは停泊する日数が長めであることを祈るしかない。離島から海祇島まではそれなりに時間がかかる。
「……これ、船で食べてください」
万葉と再会した時に返却された風呂敷に、同じように、おにぎりが詰めてあるものを手渡した。
「あの時と同じでござるな……この握り飯に救われた……だが今度は船員が大勢いる、羨ましがられぬように隠れて食べるとしよう」
「大げさな……何の変哲もないただのおにぎりですよ?あ、今回の中身は梅です」
「いやいや、これが人から貰ったものとなれば尚更、奪われぬようにしなければ……」
「船の食事情そんなに悪いんですか?」
大きな船での生活はいろいろ大変なのかもしれない。
あの時と違う場所、あの時と違う大きな船。
「……では、また、いつか」
でもあの時と違って、今度は心から笑顔で送り出せる。
「行ってらっしゃい、万葉さん」
*20231215