兄・妹
抵抗軍の大将・ゴローは非常に素直な性格をしている。
状況の変化も素直に受け入れ臨機応変に行動することで、その場における最善の道を選ぶ。
そうやって仲間たちとともに勝利を掴んできた。
冗談を真に受けてしまうこともあるが、基本的にそれはゴローの美点であった。
そしてその素直さは生来のものであり、懐の広さも幼い頃から顕在だった。
――五歳の時、突然現れたコハルという妹すら、ゴローはあっさりと受け入れた。
コハルは人に怯えていた。
耳と尻尾はしょんぼりと下がり、目には生気がなく。
部屋の隅に蹲り震えていた。
ゴローは少し離れたところから根気よく声をかけ続けた。
一年も経つ頃には暗かった表情は少し和らぎ、村の人間にも笑顔を見せるようになった。
それでも風の強い夜などはゴローの布団で一緒に寝ることも多かった。
「大丈夫だ、兄ちゃんがついてるからな」
頭を抱えるようにして犬耳を押さえ、風の音など聞こえないように布団を被せれば、小さな泣き声はやがてすぅすぅと寝息へと変わっていった。
ゴローにとって妹とは、兄になった自分が守らなければいけない存在であったから。
コハルはそんな弱々しい女の子だった。
あるときゴローが大怪我をした時までは。
望瀧村の薬店を営む男に治療を施されるゴローに縋りつき「死なないで、死んじゃやだ」と泣きじゃくっていたコハルの姿を朧げながら覚えている。
無事に目を覚ました時にはコハルは家にはおらず、薬店の男に弟子入りしたのだと後になって知った。
海祇島に連れられてきてからの日々のことを、コハルは絶対に忘れることはない。
突然現れた自分を妹であると認め、兄になってくれた。
時間をかけて、再び生きる力を与えてくれた。
助けられてばかりの自分に何ができるかを考えて、それまで目を背け続けてきた神の目をもう一度手に取ることを決めた。
使えるものは何でも使ってやる。
大切な兄の助けになるなら、それが忌まわしい過去の象徴と言えるものであろうとも。
*20231215