花旅
「旅人さん! パイモンちゃん! 久しぶりですね!」
「久しぶり、コハル」
海祇島に、旅人とパイモンが訪れた。
「お土産話、聞かせてください!」
「おう! オイラたち、璃月にある層岩巨淵ってところに行ったんだ!」
二人が行った場所のこと。そこで出会った人たちのこと。食べ物のこと。植物のこと。
コハルは行ったことのない国のことを、おとぎ話のような気持ちで聞いていた。
話に夢中になったあまり、気付けば辺りは薄暗くなり始めていた。
「あ、もうこんな時間? 二人とも、これからご飯作りますけど、食べていきますよね?」
「もちろんだぞ!」
「じゃあちょっと待っててください! あ、本とか自由に読んでてもいいですからね」
夕飯どころかこの時間なら泊まっていってもらってもいいかもしれない。
コハルはそんなことを思いながら下の階に降りた。
「コハルの料理はおいしいから楽しみだな!」
豪華ではないが、あるものの素材を生かした素朴な料理が、旅人もパイモンも案外気に入っていた。
旅人も手伝うと言ったのだが、「お客さんだから」と押し切られてしまった。
「本……か……」
旅人は机の上に積まれた本の一番上から一冊を手に取り開いてみるが、正直あまり興味の湧く内容ではない。
「コハルは自由に見ていいって言ってたけど……これって医学の本とか薬草の本とかだろ…? オイラ難しくて全然わかんないぞ……もっと楽しい本とか……ないよな…………ん?」
本棚の周りをウロウロとしていたパイモンが、机の下のある一点を見つめる。
「なんだこの箱……? コハルが持ってるにしては……
なんか……派手? だな?」
元がコハルの師匠である老年男性の部屋だったからか、この家にあるものはだいたい地味な色合いの物が多かった。
だからこそ、そこにあった色鮮やかな箱がパイモンの目についた。
「……さては美味しいお菓子の箱か……!?」
「パイモン、あんまり人の物を見ないほうが……」
「ん? なんだこれ?」
やんわりと制止しかけた旅人の声は間に合わず、蓋はあっさりと開けられた。
まあコハルなら見てもそんなに怒らないだろうと開き直って、旅人も一緒に箱を覗き込んだ。
「……押し花?」
丈夫な紙に、押し花が丁寧に貼ってある。
それが何枚も箱に入っていた。
「お菓子じゃなかったのか……」
落胆するパイモンに「お菓子だったとしても勝手に食べていいわけじゃないから」と釘を刺しておく。
作物の育ちにくい海祇島では甘味は特に貴重なのだ。勝手に食べたら流石に恨まれそうだ。
「これ、清心じゃないか?」
「……ホントだ」
「それにこっちは琉璃百合だ!」
他の紙に貼ってあったのも、稲妻には存在しない、主に璃月に棲息する花だった。
あちこちを巡っている旅人とパイモンからすれば珍しくもないようなものばかりだが、コハルは稲妻を出たことが無い筈だ。
薬のために外国から植物を取り寄せることはあるだろうが、それを押し花にする理由はわからない。
(……あれ? 押し花の下にも何か……)
「お待たせしましたー! ……あああぁぁぁ!!?」
コハルが戻ってきた途端、悲鳴をあげた。
夕飯を乗せたお盆はギリギリで落とさなかった。
「そ、それ……!!」
「ごめん、パイモンが勝手に……」
「おい!! 旅人も一緒に見てただろ!」
「うぅ……いえ…置きっぱなしたの……私ですから……」
コハルは夕飯を置くと押し花を箱に戻し、大切そうに机の下に戻した。
冷めないうちに、と夕飯を並べ、三人は手を合わせる。
「それで、なんでコハルは押し花なんてしてるんだ?」
夕飯を食べながらも、パイモンは押し花のことを忘れてはいなかった。
「うぇッ」
「あ、もしかして、ついに趣味を見つけたんだな!?」
「えっと、趣味といえば趣味なんですけど……」
「それにしても外国から花を取り寄せるなんてずいぶん 熱心なんだな〜!」
「あの……」
「でも言ってくれればオイラたちが採ってきたのに! なっ旅人!」
パイモンが話す度に、コハルの顔がどんどん赤くなっていく。
流石に可哀想になってきた。
「パイモン、コハルが何か言いたそうだよ」
「ん? コハル? どうしたんだ!?顔が真っ赤だぞ!?」
「パイモンちゃん……」
「花は……取り寄せてるわけじゃなくて、押し花も、私が作ったわけじゃなくて…」
「ん?」
「万葉さんが、手紙と一緒に押し花を、送ってきてくれたの」
(ああ、押し花の下にあった手紙の束は……)
コハルが戻ってくる直前、旅人だけが気付いた手紙。
あれは万葉からのものだったらしい。
「万葉から! だから璃月の花があったんだな!」
万葉も南十字戦隊とともに、各地を旅している。
だからこの花は万葉が旅した足跡でもあるのだろう。
手紙と一緒にその花を摘んだ景色や空気を感じてもらえたら、と思ったのかもしれない。
そしてそれはコハルにとって、遠く万葉から届くものだからこそ価値があるものであって。
万葉が各地で花を摘み、船で分厚い本に花を挟んでいる姿を想像する。
それが手紙と共に人の手を介して今コハルの元にあることを考えると、なんだかとてもほっこりした気持ちになる。
コハルはそうやって、稲妻にいながら旅をしているのだ。
「お兄ちゃんにも教えてない、秘密の宝物だったのにな」
もっとちゃんと隠しておけば良かったと、そこに悲しみの色は無かったので一先ず安心した。
「へへっ! オイラたち、宝物には敏感だからな!」
「あぁー宝物だから見つかっちゃったのかぁーじゃあ隠してても見つかっちゃうね」
「今は自分でも押し花をやってみようと思って、本に挟んでみてるんです」
「この机に積んであるやつ?」
「はい、初めてなので、うまくできるかまだわかりませんけど」
「綺麗にできるといいね」
「はいっ!」
(コハルへのお土産、花は万葉の担当で、私たちは別のにしよう)
(そうだな!)
「あ、そうだ! もし頼めればなんですけど、ググプラムと夕暮れの実を採ってきてもらえたら嬉しいです!」
「あれ、オイラたちの気遣いの意味……? まあ木の実なら別にいいか……いいのか……?」
「耳と尻尾に触ってもいいなら」
「おっ! いいなそれ! オイラも触りたいぞ!」
「えっ!?」
*20231215