朝ごはん
万葉は味噌汁の優しい匂いで目を覚ました。ほっとする、落ち着く匂い。
大きく伸びをしながら起き上がる。
寝坊というわけではないが、万葉が起きるにはちょっと遅めの時間だ。
(……どうもここだと気が弛んでしまう)
襖を開けると、階段を通して温かい空気が上がってくるのを感じる。
初めて会った――万葉がコハルの元に匿われたいた――時のことを思い出す。
あの時もコハルは早起きで、朝一番に庭で木刀を振っていた。
きっと今日も朝の鍛錬を終えてから、こうして朝餉を作っているのだろう。
「コハル殿は起きるのが早いでござるな」
「あっ万葉さん、おはようございます!」
「おはよう。少し寝坊してしまった」
「あはは、そんな遅くもないじゃないですか」
カラカラと笑いながらも、朝餉を作る手は止まらない。
「何か手伝おう」
「じゃあお魚を焼くのはお願いしていいですか?」
「任された」
万葉が慣れた様子で七輪と団扇を持って庭へと出ていく。魚をおいしく焼くのは万葉の方が上手いのだ。
卵をコンコンと打ちつけ、パカリと割る。
「……!」
バタバタと走る音が聞こえ、庭で鶯宿薬店の飼い犬を相手にしながら魚を焼いていた万葉は顔を上げた。
「コハル殿? 何かあっ――」
「万葉さん! 見てください、双子ですよ!」
コハルが差し出した器の中には小さな卵の黄身がふたつ、寄り添っていた。
「おぉ……? これは縁起が良い」
「ふふ、幸運ですね! じゃあ私戻りますね!」
コハルはそのまま室内に引っ込んでいった。
(平和でござるな……)
(……子どもっぽいって思われたかな……)
双子の卵につい興奮して見せに行ってしまった、と後からじわじわと恥ずかしくなってくる。
(だって普段はこんなの見せる相手いないし……)
近所に見せに行くわけにもいかない。
(……今日、万葉さんがいてくれてよかった)
気を取り直して、卵をもうひとつ割り、砂糖と出汁を混ぜる。油を敷いて熱した鍋に少しずつ卵液を流し入れ、火が通りきる前に丁寧に畳んでいく。
最後に形をととのえて……出来上がった卵焼きに、そっと包丁を入れると、綺麗な断面が見えた。
(……よし、今日はうまくいった!)
切り分けた真ん中の方は万葉の皿へ。卵焼きが冷めないうちに、次々とご飯や味噌汁もよそっていく。
ちょうど万葉も庭から戻ってきた。
炊きたてのご飯と熱々の味噌汁、万葉がふっくらと焼いた魚に大根おろしの乗った卵焼き、夕飯の残りのきんぴらごぼうが入った小鉢。
全部並べるとなかなか豪華な朝食になった。
万葉が来ていなければこんな豪華にはならないだろう。
「冷めないうちに食べましょう」
「うむ、それでは」
ふたりは向かい合って座り、手を合わせた。
「いただきます!」
⋆20260123