南十字船隊の宴会にて
緩やかな波間を巨大な船が滑っていく。
死兆星号。璃月に所属する南十字船隊の船である。
海の嵐を物ともせず、鎖国中だった稲妻の雷鳴の中をも通り抜けた巨大な船。
そんな船が稲妻の離島の港に入ってくるのを、コハルは何度も見てきた。
「北斗さん! お久しぶりです!」
「コハルじゃないか。また来てくれたのか」
船長の北斗とももはや顔馴染みだ。
名椎の浜での幕府軍との戦いで世話になり、そして南十字船隊の一員として船に乗り込む万葉を見送って以降、コハルは死兆星号の来訪の知らせには予定が合う限り足を運ぶようになった。
まあ万葉は気ままに旅をしていることも多いので、死兆星号に必ずいるとも限らないのだが。
「残念だが今回は万葉はいないんだ」
「……万葉さんは今ナタにいるみたいですね」
「なんだ、知ってたのか」
万葉から届いた手紙にはシャクギクという、羽のような形をした花を押し花にしたものが同封されていた。
「アイツはホントどこでも行くなぁ」
積荷を降ろすのを手伝いながら、数日は離島に停泊することを聞いた。
「そうだ、アタシ達はこれから飯を食いに行くけど、コハルも一緒に来ないか? アタシの奢りだ!」
「えっ?」
「いつも荷運びを手伝ってくれるのに何の礼も無しで申し訳ないと思ってたんだ」
「そんな、お礼なんて……!」
コハルとしては幕府軍との戦いに加勢してくれただけで返し切れない恩があると思っているのだが。
「うちの船員たちもコハルと話してみたいらしいんだ。良かったら話に付き合っちゃくれないか? コハルさえ良けりゃ、な?」
「えっと、じゃあ、お邪魔します……」
⋆
離島にある店を一軒貸し切っての宴会は既に始まっていて、やんややんやと賑やかだった。男たちはもう酒に酔っているらしい。
いつだったか、航海中は酒飲み達がうるさくて眠れないと万葉が溢していたことを思い出した。
コハルも海祇島軍隊のたまの飲み会ではたちの悪い酒飲みが数人いることを知っている。
北斗は酒をまるで水のようにグイグイと飲んでいくのに全然顔色が変わらない。酒には相当強いのだろう。
コハルは北斗の隣で感心しつつ、果実水をちみちみと飲んでいた。
豚肉の唐辛子炒めを勧められて少し食べてみたが、意外と美味しいことがわかった。というのもコハルは辛いものが苦手だからだ。
璃月産の絶雲の唐辛子なんてすっごい辛いんでしょ……と食わず嫌いでいたが、調理法によるらしい。
まあ辛いものはやっぱり辛いので、すぐに体がカーッと熱くなって、水を二杯ほど飲んだが。
しばらくして、コハルは酒飲み達による質問攻めにあっていた。
「こーら、コハルが困ってるだろ」
「え〜〜だって稲妻での万葉のこと聞きたいだろ!」
「俺らは船の上の万葉しか知らないからなぁ」
「そうだよ! 稲妻では大人気なんだろ!」
「いっぺんに訊くなって言ってるんだ! ひとりずつ訊きな!」
主に万葉が稲妻に帰った時はどんな風に過ごしているかについてだった。
「君の家に泊まったりするんでしょ? 何するの?」
「えっと……一緒にご飯を食べたり……兄と釣りに行ったり……宝盗団に絡まれたのを捕まえたり……ですかね……?」
「……それだけ……??」
「いろいろ旅先でのことを話してくれますよ。お土産話を聞くのが何よりの楽しみなんです」
(万葉、泊まって話して飯食ってるだけじゃね?)
(いやそもそも女の子の家に泊まってるっていうのが……)
(でも万葉もこの子もあんまり気にしてなさそうな……)
(それはもう……宿では……?)
「あ、あと友達(平蔵)の仕事を手伝ったりとか、知り合いの十五さんとお茶を飲んだりしてるって言ってました」
「うん……やっぱり万葉だわ……」
船の上と同じで、自由気ままに過ごしているようだ。
「うーん、あ、そうだ、万葉はすぐ旅に出るから、心配じゃない?」
「心配……風邪ひいてないかとか、怪我してないかとか、心配なことはありますけど……いいんです、お手紙とか、たまに顔を見せてくれれば、安心できますから」
「えーでももっと一緒にいたいとかはないの?」
「万葉さんは自由にしてるのが一番似合いますから」
コハルの顔には何の憂いもなかった。
「なーんだ俺達よりコハルさんの方が頻繁に連絡してるんだな」
「そりゃそうだろ!」
「俺達はこーんなに万葉のこと思ってんのにな! 何の便りもくれないんだぜ!」
冗談を交えながら寂しがる船員に北斗が笑い出す。
「あっはっは! それは次に万葉に会った時に伝えてやんな! 鬱陶しがられるだけだと思うけどな!」
「やだよ恥ずかしい!」
「皆さん仲良しなんですね!」
船員たちが離れていても万葉のことを仲間だと思ってくれていることが嬉しかった。
「いいんだよ、便りがなくたって元気にしてりゃな! たまに船に乗りたい時だけ顔見せてくれれば、それで充分だ」
酒を煽りながら笑ってそう言った北斗は、豪快でかっこいい憧れのお姉さんだった。
*20260115