焼きおにぎり




 ドン、と目の前に白飯の入ったお櫃が置かれる。
万葉が見ている前でコハルは白飯をギュッギュッと固く握っていく。
(……固すぎでは……?)
稲妻を発つときに渡されるおにぎりはいつもふわっと握られていて、口に入れた瞬間にほわんとほどける、癒しの食感なのだが。
心配そうな視線をよそにコハルは皿の上にころころと小さめのおにぎりを並べていく。

 そして背後から、ドン、と更に七輪が置かれた。
魚を焼いたり、冬場は暖をとるために重宝される、鶯宿薬店ではよく活躍しているものだ。
七輪を見て万葉もピンと来た。
「焼きおにぎりでござるか」
「当たりです!」
それなら固く握るのも納得だ。
いつものふんわりとしたおにぎりでは焼いているうちに崩れてしまうのだろう。

 薄く油を塗った網の上におにぎりをそっと置いて。
黙ったままおにぎりの表面の様子を眺めていると、炭が時々パキンと音をたてる。
表面がカリカリになってきた辺りで、ころりとひっくり返す。
しばらくしてもう片面も固くなりところどころに焦げ目がついてくる。
刷毛でさっと醤油を塗ると、じゅわぁ、おにぎりから滴った醤油が炭に落ちて悲鳴をあげた。
同時に醤油の焦げたにおいが立ち昇る。お腹の空くにおいだ。

 ふたりで七輪をじっと見つめて、機を見計らう。
「……そろそろいいですかね」
「うむ」
菜箸で慎重に網から剥がし、ころんと皿に転がした。
焼きたてあつあつのおにぎり。
「熱いので気をつけ……」
「……あっ、つつ」
「えっちょっまだ熱いですよ!」
手のひらの上でおにぎりが跳ねる。
とても熱いが、何度かそうしているうちに持てるようになってきた。
「大丈夫、でござる。いただきます」
熱さよりも早く食べたい気持ちが勝る。
かり、と歯を立てれば口の中に湯気が溢れる。
香ばしい醤油の香りが広がった。
かりっ、がりがり。ぱきん。
表面は柔らかめの煎餅のよう、中は醤油が染み込んだあっつあつの米。
ほくほくとした気持ちで二口、三口と頬張っていく。小さめのおにぎりなので、すぐに無くなりそうだ。

 ひとつめのおにぎりを食べながらコハルはふたつめを焼いていた。
「ふたつめはお味噌にしましょうか」
出汁で柔らかく溶いた味噌を零さないように塗っていく。
(味噌!!)
それはもう美味しくないわけがない。
万葉の表情からわくわくしているのが伝わってくる。
コハルの心の中では既にみっつめのおにぎりは酢醤油が控えているのだ。

 ふたりはおいしいにおいの中で、おにぎりが焼けるのを待った。



*20260114



うたうまち