「ハァ・・・」
「いい加減そのクソデカ溜息やめてくんね?」
昼休み。いつものように黒尾と昼ご飯を食べていると、本日何度目とも分からぬ溜息をつかれたため指摘をする。
「やっくん知ってた?苗字に好きな人がいたって」
「お前が知らない苗字のこと俺が知るかよ」
覇気のない顔でパンに齧り付く黒尾。このクラス・・・どころか、学年できっと苗字と一番仲が良いのは黒尾だろう。三年間クラスが一緒だったこともそうだが、何より二人の性格や波長が合うことは、二人のやり取りや雰囲気を見ていれば分かる。
黒尾がHRで突然の大声をあげてクラスみんなの注目を集めた朝の一件(もちろん担任の先生にもしっかり注意された)について詳細を聞かされた俺。苗字がショートヘアにした事、苗字が失恋したこと、どちらも俺にとっても驚愕の事態だった。正直俺は、てっきり苗字が好きなのは黒尾だと思っていたから。もちろん黒尾が苗字を好きであることは、随分前から知っている。だから、苗字が好きな相手が黒尾であれば失恋なんてするはずがないわけなのだが。苗字
「まあでもショート、似合ってるよな」
「・・・苗字のこと好きになるのは、まあ、うん、可愛いから仕方ないとして、俺から奪ったら夜久でも許さねえ・・・」
「俺から奪ったら、って、そもそも苗字はお前のものじゃねえだろ」
俺の発言にぐうの音も出ないのか、黒尾の目は相変わらず生気がない。
そんな黒尾を無視して、つい最近苗字が言っていたことを思い出す。
『私って黒尾の事好きなのかな?』、これはつまり、少なからず苗字の中で黒尾に対する気持ちの変化が生じていることを意味するだろう。俺も苗字とは仲が良い部類に入るが、今まではっきりと苗字の気持ち、特に黒尾に対する恋心の有無については俺も知らない。けれども、黒尾の事を嫌いじゃなかったら、この親密な関係も三年目に突入していないだろう。イコールそれが好きという感情になるかは別だが、ここで先日の苗字の発言を思い返すと、どうしても納得のいかない点が出てくる。
恋人ではない異性に対して、好きなのだろうかという疑問を抱く、ということは、少なからず好意があるということだと考えられる。可能性としては、低いか高いかで言えば、高い方ではないだろうか。では、その可能性の高い仮定の話・・・苗字が黒尾を好き、とまでは言わなくても、苗字が黒尾を気になっている、として話を進めていくと、その相手の黒尾のどこに失恋したと思う要素があるのだろう。それこそ一年の時から「俺達付き合っちゃう?」だの「俺に惚れちゃった?」だの歯の浮くような発言をしてきた相手だ。こんな事を言っておきながら、実は他に彼女がいました、なんて、黒尾はそんな人でなしではない。それは苗字も分かっているはずだ。それに、実際黒尾に彼女はいない。入学してすぐ苗字を好きになってから、片想いを拗らせ続けて今に至っている。では、何故?何か決定打があったに違いない。しばらく考え込んでいると、一つのある可能性が夜久の頭に浮かんでいた。
一方その頃。
「あ!名前さんじゃないですか!」
委員会の書類を先生に提出しに行った帰り、教室に戻ろうと歩いていると、目の前から大きく手を振るリエーフ君に声をかけられた。
「この間、試合観に来てくれたんですね!超嬉しかったです!」
先日リエーフ君に試合に誘われた時、私は「行けたら行くかも」というなんとも曖昧な・・・むしろ行くつもりのない時の常套句のような返事をしていた。そして、リエーフ君をはじめ、誰にも言わずにひっそりと観に行っていた。のだけれど。
『え、気付いてたの?』
「いや、俺は気付いてなかったんですけど、黒尾さんがめちゃくちゃ調子良かったから聞いてみたんですよ、そしたら」
『そうなんだ。バレーの試合、初めてみたけど凄かった。みんなかっこよかったよ。ごめん、友達待たせてるから行くね。』
リエーフ君の言葉を遮って、矢継ぎ早に試合の感想を述べる。遮ってしまって嫌な思いをさせてしまったかな、と思いつつも、試合について褒められて嬉しかったのか、リエーフ君は「ほんとですか!?」と至極嬉しそうにして私に変わらず大きく手を振って去っていった。
きっと、黒尾に調子が良い理由を聞いたら彼女が来てると言う事でギャラリーを見渡した時に、偶然私の姿を見かけたのだろう。黒尾の彼女の存在について二度も現実を突きつけられたくなくて、私は後輩とのやり取りを無理矢理終わらせ、足早にその場を去ってしまった。モヤモヤとして足早に教室に向かうけれど。けれど。教室に向かったって、席に着いたって、すぐそばに、そのモヤモヤの元凶の黒尾がいるのに。