メンタル死亡保険



「前々から思ってたんですけど、その怪しい封筒は一体何なんですか。」

引き出しに入れられた怪しい茶封筒からお金を出したところで、私は後ろから声をかけられた。

『・・・メンタル死亡保険』
「・・・は?」

こいつは何を言っているんだ、と言わんばかりの蔑んだ顔。それだぞ、そういうのがメンタルを殺していくんだぞ。なんて先日上司から向けられた"お前は仕事が出来ないなあと思っている顔"を思い出しながら、メンタル死亡保険について説明する。

『毎月ちょっとずつ積み立てをするのね、それで、メンタルが死亡した時には、そこから保険金がおりるの。その保険金で、美容室に行ったり美味しい食べに行ったりして自分を元気にする保険。』
「・・・何ですか、それ。」
『いや、だからね、毎月お金を、』
「そうじゃなくて。」

蛍くんが封筒を持つ私の手首を掴む。

『ほ、保険金目当てですか!?』
「・・・どうしてそうなるんですか。」

私のサスペンスドラマよろしくな渾身の演技に相変わらずノリもせずひと笑いもせず、呆れた様子で私を見る蛍くん。

「メンタル、死んでるんですか。」
『・・・あの、うん、ちょっとね・・・』
「それで、黒尾さんとご飯に?」

何で知ってるのこの人・・・と思ったけど、そういえば蛍くんは黒尾さんの知り合いだったんだよな。私が言うよりも先に蛍くんが知ってるということは、きっと黒尾さんから聞いたのだろう。
黒尾さんは私の会社の一個上の先輩だ。新社会人になった私は直属の先輩にあたる黒尾さんから仕事の事を色々教えてもらってて大変お世話になっている。先日も書類に不備があって上司に怒られていたのを助けてもらったのだが、見かねた黒尾さんがご飯に誘ってくれたのである。別にやましい気持ちがあったわけでも、隠そうとしていた訳でもない。シンプルに、今の今まで言い忘れていた。


「そんな事しなくたって、僕がいるじゃないですか。」
『でも、あの、それとこれとは話が別というか・・・』
「年下で学生の俺と一緒にいても、名前さんは元気にならないんですか。」
『・・・なる、けど・・・』

なるけど、蛍くん、テスト前で勉強大変そうだったから、私がちょっと仕事で落ち込んだことの気分転換に付き合わせるのは悪いなあと思って。「そういう気遣いはいりません。無理な時は無理と言います。」と蛍くんは言うけれど、やっぱり遠慮してしまう。

「確かに貧弱メンタルの名前さんにはうってつけの保険かもしれませんけど」
『うっ』
「もう少し、彼氏を頼ってもいいんじゃないですか。」
『・・・ふふっ』
「何笑ってるんですか。」

畳みかけるように言葉を並べる蛍くん。いつも通りの毒舌と見せかけて、蛍くんに少しの焦りが滲んでいることが私には分かった。

『ヤキモチ妬いた?』
「・・・妬いてません。」
『あはは、大丈夫だよ。確かに黒尾さんは頼れる先輩だけど、頼れる彼氏は蛍くんだけだから。』

蛍くんのこういうところ、可愛くて好きだなあ。本人に自覚はないのだろうけど、案外分かりやすいところあるよね。ちょっと拗ねた様子の蛍くんに抱きつくと、蛍くんはため息をつきながらも私の背中に手を回してくれた。なんと、今日は頭ポンポンのオプション付き。これからは、メンタル死亡保険の保険料少なくてもいいかもなあ、なんて思いながら、蛍くんにもっと頼ろう、甘えようと思う私であった。