最終回より先に


『あ、佐藤くんのドラマとコラボしてるやつだ。』

隣の席の二口が食べているシュークリームを指差して言うと、二口は大きな口を開けながらこっちを見る。

「なに?ファンなの?」
『最近やってる人気ドラマ見てない?めちゃくちゃかっこいいよ。』

友達にすすめられて遅ればせながら私も見始めた恋愛ドラマだが、主人公とヒロインの焦ったい恋模様に毎週きゅんきゅんさせてもらっている。昨日もとても良い所で終わった。ヒロインへの恋心を自覚して告白しようと水族館デートに誘う佐藤くんがめちゃくちゃかっこよかった。次週に最終回を控えたそのドラマと企業がコラボをして様々なコンビニスイーツをしてるらしく、二口が食べているシュークリームはそのうちの一つ。

「恋愛ドラマとか興味無え。つーか、そんなんばっか見てっからこないだの設計のテストも赤点ギリギリになんだよ。」
『はぁ?』
「なんだよ、文句あんのか?俺が教えてやんなかったら今頃補習地獄だった事忘れんなよ?」
『それを言うなら二口だって、私が数学教えてあげなかったら今頃おすぎの課題の餌食だったくせに。』

私達のクラスの数学担当のおすぎこと杉本先生は、テストで赤点を取った生徒に倍近くの量の課題を提出させる事で有名である。設計の方もまた然り。こちらは放課後に補習があって、その時間にみっちり課題をさせられるタイプ。私達はお互い全科目良い点が取れるほどの頭の良さは持ち合わせていないため、苦手科目をよく教え合っている。お互い言ってる意味が分からないだの教え方が悪いだの文句ばっかり言いながらやってるんだけど。

いつもの如くやいのやいの言い合いながらも、二口はシュークリームを食べ進める。SNSでは結構美味しいって評価されてたけど、二口は特に味の感想も言わずに食べ終えてしまった。

『美味しい?』
「別に。普通。」
『あっそ。』
「興味無えなら最初から聞くなよ。」

シュークリームが入っていた袋をぐしゃっと潰し、コンビニの袋にゴミを入れる二口。

『あーあ、私も佐藤くんみたいなイケメンと水族館デートがしたいな〜。』

昨日のドラマの事を思い出しながら呟く。こちらも人気急上昇中の女優、渡辺ちゃん演じるヒロインだってあんなのもう恋に落ちた顔してたし。確定演出じゃん。デートに誘うタイミングも雰囲気もデートの場所も全部文句無し。あんな男の子が彼氏になったらめちゃくちゃ幸せだよ。毎日ハッピーだよ。

「お前みたいなガサツ女がイケメンとデート出来る訳ねぇだろ。」
『二口にガサツとか言われたくないんですけど。』
「誰も苗字の事なんか相手にしねーって。」

なのに私は。ほんと、なんでこんな奴のこと、好きになっちゃったんだろう。口が悪くて、いっつも私に喧嘩腰で、良い所といったら他の男子よりちょっと顔が良いくらいじゃん。もっと、佐藤くん演じる主人公みたいな、優しくて穏やかな人とか他にいくらでもいるのに。

『・・・そんな事ないし。』
「あ?」
『・・・誘われたし。デート。』
「・・・ハァ!?」

うるさ。予想外の大きさでリアクションをする二口の声に耳に手を当てる。二口は、私の相手をしてくれる人なんかいないって言うけれど、私自身も自分が多くの男性から好意を持たれるような人間ではないとは分かっているけれど・・・実はつい最近私はデートのお誘いをされたのだ。

「誰にだよ。」
『それは、言ったら相手が可哀想じゃん。』
「ハァ?いつだよ?どこに?行くの?お前?」
『なんで二口に教えなくちゃいけないの。』

実際、そのデートに行くかどうかの返事はまだしてないんだけど。誘ってくれたのは隣のクラスの木下くんなんだけど、私、木下くんの事全然知らないし。そもそも私、好きな人いるし。

「ざけんなよ、まじで。」
『・・・なんでそんなにイライラしてんの?そんなに私が男の子と出かけるのがいけないわけ?』

眉間に皺を寄せて頭をガシガシと掻き、イライラが隠しきれてない様子の二口。いいじゃん別に、私がいつ誰とどこで何してようが。二口には、関係ないじゃん。

「おい。」
『何?』
「日曜、暇っつったよな。」
『え?まあ、うん、暇だけど。』

そんな話いつしたっけ?と思いながらも、二口の質問に答える私。何、黙ってるの、怖いんだけど。

「日曜、行くぞ。」
『え?どこに?』
「水族館。」
『・・・は?』

日曜に?行く?水族館に?

『誰と?誰が?』

状況が理解出来なさすぎて頭の中はハテナでいっぱい。なんで?何がどうしてこうなってるの?混乱した私は、誰と誰が行くのかという間抜けな質問をしていた。

「俺と、苗字が」
『え?え?』

日曜に?水族館に行く?二口と?私が?

「言っとくけど!」
『ハイッ!』

強めの語尾で高圧的に、でもひどく真面目な顔で喋る二口に、ついつい敬語で返事をする私。側から見たら、ひどく滑稽に見えるだろう。けれど、そんな事考える余裕なんてなかった。だって、二口が。

「デートだからな。」

デートって。私なんか誰も相手にしないって言ったくせに、急にイライラしだしたかと思ったら、今度はデートとか言って私を誘ってきて。しかも、なんでそんなに二口の顔、真っ赤なの?
私だって、昨日のドラマとはタイミングも雰囲気も全然違うデートのお誘いなのに、なんでこんなに、ドラマを見てた時よりも、ドキドキして、顔が、体が熱くて、苦しいの?
ほんと、意味わかんない。

「来ないとか許さねえから。ぜってー来いよ。」

そう言って二口は教室を出ていってしまった。どうしよう。二口と、水族館デート。急展開に未だついていけていないショートした頭をなんとか動かし、私は日曜日までに新しい洋服を買うべく行きつけのショップのHPにてアイテム一覧を必死で眺めるのであった。