聞きたくない噂
一年生の切原赤也があの三強に試合を申し込んだらしい。そんな噂は、友達のいない私の耳に届くくらい有名で、ああ、もうそんな時期なのか、なんて思った。そして、また原作へと一歩、近づいていることを悟る。
勿論、切原赤也は負けたらしい。わかっていたことなのだけれども、少し怖かった。
とは言え、もう私には関係のないことだ。自分にそう言い聞かす。彼等と私の道が交わることなんて、この先そうそうないだろう。
そう思った矢先。昇降口で運動靴に履き替えていれば、背後から「あ、あんたが工藤先輩っスか?」なんて声がかかった。
「え。まあ、はあ」
顔をあげて声をかけてきた主を見れば、それは間違いなく、今噂の人物の切原赤也であった。
けど、テニス部のマネージャーを辞めた私は今年度新しく入ってきた彼とは生憎面識がない。私がただ一方的に彼のことを知っているだけだ。そんな彼が、私に何の用があるというのだ。
「へえ。じゃあ、アンタが噂の……」
切原くんが呟いた言葉に私は首を傾げた。
……噂? 私の?
その品定めをするような切原くんの視線が居心地悪くて、私は目を逸らす。
「ちょっと、赤也」
「あ、幸村部長!」
そんな切原くんを止めたのは、突如現れた少し焦った様子の幸村くんで、私は妙に納得してしまった。
きっと、教えたのだろう。私のことを。その光景が、目に浮かぶ。
「幸村部長! なんでテニス部って部員数多いのにマネージャーとらないんっスか?」
「え? あぁ……前は、一人いたんだけどね。そのマネージャー、凄い俺たちに媚び売っていて、うざかったから少し雑に扱ったら、辞めちゃったんだ」
「へぇー。先輩達に媚びるとかその人、良い度胸してるっスねー。ちなみにそのマネージャー、名前なんて言うんっスか?」
「工藤由加。彼女にはあまり近づかないほうがいいよ。彼女、ひどい男好きだから」
「赤也、そんな奴に話しかけるのやめなよ」
「でも幸村部長、この人そんな凄いブスってわけでもないし悪い奴には見えないんっスけど」
「……見た目に騙されちゃ駄目だよ、赤也」
幸村くんは私ことを見ようともしなくて、私がまるでこの場にいないかのように、決して私を見ようとはしない。そして不思議がる切原くん。
彼等のそんな会話を聞いていれば、段々とイライラとして、どうしようもなくて、耐えられなくて、私は小さな声で「もう、家に帰るので」と言って、返事も待たずにその場を離れた。
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