03

 それから数日が経った。
 同じクラスになってしまった彼とは一切話すことはなかったし、彼が喋ろうならば、耳を塞いだ。このまま一年が何事もなく過ぎていけば、と思う。でも、人生とはそううまくはいかないものである。

 休み時間、私がお手洗いから戻ってくると教室が騒がしかった。中を見て、私は思わず納得した。

 跡部先輩が、いた。
 鳳くんに部活の連絡でもしに来たのだろうか。まあ、そんなことがわかたって、この状況が変わるわけではないけど。

 私は二人もキャラがいる教室など入る気がしなくて、引き返そうとした。
 だけど、チラリとそちらへと向けていて、逸らそうとした目が、何故か、跡部先輩と、合った。
 こんな事は、今までなかった。あの人達と目が合ってしまうなんて。だから、どうしていいのかわからなくて、視線を逸らしたいのに、体がまるで魔法にかかったのかのように彼から目が離せなくて。
 ただ、戸惑った。

 彼は僅かに口許を上げると、こちらへと近づいてきた。私は思わず後ずさる。彼が、私のほうへと近づいてくるのは当然のこと。だって、ここは教室の入り口なのだから。
 動けない。震える。恐怖。
 逃げたいのに、逃げられない。
 彼はそんな異常な私の様子に気づかず、私の方へと近づいて来る。
 私の横をそのまま通り過ぎるのかと思って、少しの間、目をギュッと瞑った。早く、行って。目の前から、消えて。そう願う。だけど、一向に彼が私の横を通り過ぎる気配はなくて。
 私が恐る恐るそっと目を開けると、彼は私の目の前にいた。
 交錯する視線。

「宮崎の、妹か」

 耳を塞ぐことさえも忘れた。できなかった。
 その変声期を迎えたばかりの彼の低い声が鼓膜を震わす。耳が、痛い。
 やめて。近づいてこないで。話しかけてこないで。聞きたくない。見たくない。でも私は、その場から動けない。ただ、震える。全身から彼を拒絶する。
 もうだめだ、そう思った時。

「跡部様、ご用件がお済みでしたらお引き取り願いませんでしょうか?」

 その時、辺りに響く心地よい凛とした声が辺りに響いた。
 それは、私の光。
 救世主は、優奈だった。
 優奈は、異常な私の様子に気づき、声をかけたのだ。
 跡部先輩は優奈を一瞥すると、「ああ、そうだな」と言って、もう一度私を見て、教室から去って行った。

 彼の姿が視界から消えた瞬間、私はその場に崩れ落ちた。
 優奈は、そんな私をしっかりと支えてくれた。

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