05

 放課後。私は授業でわからないことがあって、それを聞くために職員室を訪れた。
 けど、職員室のドアの先にいた人物を見て、足を止める。

「失礼しました」

 礼儀正しくおじぎをして職員室のドアを閉める彼。そして彼が、こちらを向くーー。

「っ!」

 思わず、背を向けてその場を去ろうとした。
 先生に質問なんて後でできる。今は、逃げなくちゃ。
 最近、どうしてかキャラ達を見かけ、関わることが多くなっている。そのせいで、少し情緒不安定だ。これ以上関わってしまいたくない。
 なのに、その手は私を引き止める。

「待って」

 その手は私の腕を掴んでいた。温かい。そこからじわり、と熱が広がっていく。
 ーーああ、私も彼も、生きている。
 2年生になって、同じクラスになった彼。彼は、私の腕を掴みながら言った。

「どうして、逃げるの?」

 触れ合った部分から痛みが広がる。別に、彼が強い力で掴んでいるからじゃない。私の、心の問題。
 私は思わず彼の手を振り払う。彼はあっさり手を放してくれた。
 長身の彼の顔を見上げることはしない。できない。彼の鳳、と綺麗な字で書かれた上履きを見つめる。

「宮崎さんって、俺のこと、避けてるよね」

 やっぱり、張本人にはバレるものなのか。それほど、わかりやすいのか。避けているってわかっているなら、そのままほっといてくれれば良いのに。どうして声をかけるの。

「俺、宮崎さんに何かした?」

 何もしてない。

「なんかやってたなら、謝る。理由もわからないで避けられるのは、辛いよ」

 彼が困っているのがわかる。
 彼は良い人。自分は何もしていないのはわかっているはずなのに、それでも自分に非があるのだと思って、謝ろうとする。
 たとえあまり親しくない人間だとは言え、理由もわからず避けられるのは確かに辛い。でも、理由を言うワケにはいかない。言えるはずがない。

「ごめん」

 これ以上彼の近くにいることなんてできなくて、視界に彼が入るのが耐えられなくて、彼の声を聞きたくなくて、私は彼に背を向けてその場を離れた。彼は私を追いかけなかったし、呼び止めなかった。

 本当は、わかってる。こんなの間違っているって。でも、向き合うことなんてできない。私には、逃げることしかできない。

 そして、私は気づいた。

 私は多分今、初めてキャラと会話をした。
 初めてかけた言葉は「ごめん」、その一言だったけれども。

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