漆黒で踊ろう


「ひぃっ、やめて……!」

鼻を突くようなインクのにおいと、恐怖心から呼吸がうまくできない。目の前に覆い被さる漆黒のクリーチャーからは、ぼたりぼたりと黒が滴る。

ここに来るんじゃなかった!と私はひどく後悔した。事の始まりは一通のメッセージカードだった。私の父はアニメ会社に勤めるクリエイターで、幼かった事の私もよくこの職場に遊びに連れてきてもらっていた。ここで作られるものは何でもキラキラしていて、パパ達が描くBendyやBorisが大好きだったし、Aliceというキャラクターはお姉さんぽくて、私の憧れでもあった。

私がスクールへ上がる頃、家族みんなで引っ越しが決まり、アニメーション会社にも来れなくなった。そしてさらに数年後、父が強盗に襲われて死んだ。若すぎる死に残った家族は悲しみにくれた。

そんなある日、父の仕事仲間だったSammyからメッセージカードが届いたのだ。

『なまえへ。こっちに戻ったら、是非会社に立ち寄って欲しい。君のお父さんの写真や資料が出てきたんだ。』


メッセージカードを手に、数千マイル離れたこの州へと私は訪れたのだ。








「……………!!」

このまま、このクリーチャーに飲み込まれてしまうのでは。腰もすっかり抜けてしまって、恐怖で情けない声を上げることしかできない。

目の前の化け物は黒々としたインクを滴らせ、白い歯を見せながら静かに笑うばかりだ。滴るインクが私の顔へと垂れて、インクの味が口に広がる。太い三日月のような形の頭に、首元にリボンが見える。…………ちょっと待って。私はこの化け物を知っているのではないか?


「…………………Bendy?」


私の言葉に漆黒のクリーチャーはますます嬉しそうに笑った。


「やあオカエリなまえ!」


僕たちずっと君を待ってたんだ、あの頃みたいにミュージックに乗せてみんなで楽しく踊ろうよ。BorisもAliceもキミを待ってるんだ。早くインクマシーンを組み立てよう?

小さな黒い悪魔は、真っ黒なインクを滴らせて私の手を取るのだった。



ALICE+