ウフフ


顎の下を念入りに撫でられて、私はたまらずゴロゴロと喉を鳴らす。この人猫がどこを撫でれば嬉しがるのか、熟知している。そういう撫で方をする人だった。目を細めて見つめれば、心なしかこの男の人も嬉しそうに微笑む。会うのは何度目かだけど、毎回撫でてくるので、相当の猫好きなのだろう。私を見かけるたび、そっと近付いてはその場にしゃがみ込み、大きく無骨な指で優しく触れるのだ。最初はもちろん警戒した。失礼ではあるが、ボサボサ頭に無精髭。それに血走った目。正直浮浪者か、怪しい人間だと思った。個性で猫になっていた私は、いざとなれば素早く逃げ出して人間に戻ろう。そう考えた私は彼をジッと睨んでいると、彼はチッチッと何度か舌を鳴らして「君可愛いね」とポツリと声をかけてきた。その声があんまりにも優しさを孕んだ声色だったので、私はすぐにわかった。「あ。さては貴方、猫好きだな?」と。

「いつもこの時間になると来てくれるね。」貴方に撫でられるのは嫌いじゃないからね。という意味を込め、ニャアと鳴いてみる。いくら猫になり人の言葉が喋れないとしても、こんな風にニャアと鳴くだなんて、我ながらあざといなあと思い、心の中でウフフと笑う。あざとい、あざといぞ、自分。けれどせっかくの個性なのだから、思い切り甘えてやろうではないか。そういう猫人間なのだ。わたしは。

「君は甘えん坊だな」彼の指先がするりと頬を撫でる。彼はカツヲ節(猫用)を手のひらに出して、私の口元に手を差し出した。なんとも美味しそうな匂いである。猫になっている間は味覚も猫になるので、キャットフードも不思議と美味しく感じる。カツヲ節をぺろりと食べきる。「美味いか?」「ニャムニャム。ニャオー。」美味いです、いつもオヤツをありがとニャー。「……どういたしまして。」耳の付け根を撫でられる。美味しいもの食べて、可愛がってもらえて、私は幸せものである。


***


出先で彼にばったり会う。思わず「あっ!」と嬉しげな声を出してしまい、血走った目の彼とバッチリ見つめる合う。……しまった!いまは人間だった!私はなんて馬鹿なんだ!変な人と思われただろうか?急激に恥ずかしくなって、私は誤魔化すように軽く会釈をし、足早に彼の横を通り過ぎる。ひゃー恥ずかしい!


「あの」

声をかけられ、振り返る。落ち着け落ち着け。彼は知らないのだ、私がいつも会っているニャンコちゃんだってことを。心の中でウフフと笑ってしまう、私だけが知っている秘密。

「……なんでしょう?」
「はい、コレ。」

目の前に差し出されたのは、猫用のカツヲ節だった。私が驚いて目を丸くしていると、男はニッと笑ってこう言ったのだ。

「今日のぶんのオヤツ。好きでしょ?ニャンコちゃん。」



フギャア。



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