あっ、なんだか今、ものすごーくエルに会いたい。
夕食の後片付けを終えたキッチンの台所で、なまえはそう想った。恋人である彼に、たまらなく会いたい。それこそ喉から手が出るほどだった。
一度そう考えてしまったなまえは、もう恋人である彼のことで頭がいっぱいになっていた。食事中や入浴中、歯を磨いている時でさえエルのことを考える。切なく、どこか温かく、寂しい。すぐにでも彼に一本電話を掛け「会いたい」と伝えよう。……それができればどんなに良いだろうか。一般的な恋人であれば、間違いなくそうするだろう。しかし相手は世界を動かす事さえできる"L"なのだ。きっといまこの瞬間でさえ、彼は自分が想像もつかないような難事件を捜査しているのだろう。そんな彼に我儘を言って困らせる、なんてことはできないのだ。
恋人になると同時に決めた、なまえ自身との約束。「多忙であり、人類の希望とも言える彼の邪魔をしない」ということ。これは彼女の、自分自身との約束。
……会いたいな、なまえはそう呟きゆっくりと微睡みの世界へと落ちていくのだった。
*
「起こしてしまいましたね」
目尻をなぞる細くもしっかりとしたこの指を、なまえはよく知っていた。
「エル?」
「はい。エルです」
「エル、」
「はい、なまえ」
「エルだ……」
「貴女もしかして寝惚けてるんですか」
泣いてましたね、そう言って彼は彼女の目頭を親指の腹でなぞる。気が付かなかったが、彼の言うとおりなまえは泣いていたようで、頬から伝った涙のせいで僅かに首筋が濡れているのがわかった。なまえはノソリと起き上がり涙を拭う。
「なんで」
「はい?」
「なんでここに……」
ああ、彼は納得したようにひとつ頷くと、いつもと変わらぬ飄々とした口調で「きっとなまえが私に会いたいあまり、涙で枕を濡らしているのではないかと思い、中国での事件がひと段落着いたので、合間を縫って日本まで来ました。全てが解決したわけではないので、数時間しか時間はありませんが」と淡々とそう告げた。まるで隣町からやって来た、とでも言うような軽さだった。
やはり泣いていましたね。そう言って微かにしたり顔をする。
「泣いちゃいました、エルに会いたくて」
「私の勘は当たるんです」
「えへへ、へ、……うう」
「会いに来たんですから、もう泣かないでください」
「ちがうの、嬉しくて、エルに会えたのが、死ぬほど嬉しい」
「私も会えて嬉しいですが死なないでください」