emergency

「さて、今日は何にするんだ?」


『うーん、なににしようねぇ?』


スーパーにて、食材を吟味しながら歩いていると


「おーい、いっちろー!」


「…ッ!?乱数!?」


何故か飴村乱数がスーパーにいた…


「どうしたんだよこんなところで」


「えー?僕だってスーパーくらい来るよぉー!そ・れ・よ・り…オネーサンッ!」


『え…っ!?』


一郎くんと話していた乱数が私に話しかけてくる。


「キミ、何処から来たの?」


『え…?』


ドクン、と心臓が脈打った。


「お、おい!乱数!突然どうしたんだよ?」


一郎くんがあわてて止めに入ろうとしてくれるが…


「いいじゃん!ねぇ、オネーサン…」


『…!』


唐突にそう訪ねてくる乱数に、私は怖くなり、私は思わず一歩、二歩、と後ずさる。

乱数の目が怖かった。


「…ねぇ」


そう問いかけられた瞬間、私は怖くなって、弾き出すように駆け出していた


「おい!!姉ちゃん!!」


その声に振り向くことなく、私は走り続けた。










『…はぁっ、はぁっ…』


しばらく走って、着いたのは知らない場所。


当たり前だ。


私はここに来て間もないのだから。


今まで好意しか寄せられなかったから、悪意を持って接せられて、怖くなってしまったのだ。

でも当然だ。

万人に好かれるなんて出来ないのだから。


『うう…』


思わず涙がこぼれた、その時。


「…?江藤、さん…?」


『!!』

ばっと声の方を振り向くと、観音坂独歩がいた。

…何てタイミングだ…


私は慌てて涙を拭う。


「…!?泣いていたんですか…?」


『っ!』


独歩がこっちに近づくのを感じ、思わず後ずさる。


「…なにがあったんですか?」


独歩が優しく聞いてくる


『…別に、何も…』


私はそう言ってそっぽを向く。


「何もないって顔じゃないだろ。絶対何かあった。俺には言えないことなのか…?」


『…それは…』


そんな風に言われたら、話してしまいそうになる…


独歩にだけ話せない訳じゃないもの。


だけど…独歩に話したって、独歩が困るだけだ。


私が狼狽していると、独歩が意を決して話しかけてきた。


「…俺じゃ、ダメですか」


『え…?』


それはどういう意味だろうか。


というか独歩はどういう考えでそれを言っただろうか。


私が考えていると、独歩が一歩近づいてくる。


「…先生から聞きました。貴女が色々悩んでいること…その内容までは聞けませんでしたけど、俺でよかったら力になります。だから、俺のことも頼ってください」


『…どうして』


独歩の優しい言葉に、どうして、なんで、そんな言葉ばかりが浮かんでは消える。


「どうして、なんて…俺にもわかりません。ただ、貴女が放っておけない。それだけです」


独歩はそう言うとまた一歩近づいてきた。


私たちの距離はもう少ししかない。


『…うぅ…』


私が思わず泣き始めると、独歩は慌てながら抱き締めてくれた。

なんて優しい人なんだろう…

私は独歩の優しさに甘えて泣いた




emergency

(緊急事態)