心地良い沈黙

しばらく独歩と過ごしていた時だった


「…あれ、江藤さん、携帯、鳴ってませんか…?」


『え…?あ、ホントだ。…あ』


私がスマホを開くと、そこには一郎から連絡の山が。


“どこにいる?“


“乱数のやつがごめん”


”姉ちゃんと仲良くなりたかっただけらしい”


“頼む、連絡くれ”


『えー…こんなに一杯…』


「どうしたんですか?」


『あ、一郎くんから連絡が…ちょっと電話してもいいですか?』


「ええ、どうぞ」


プルルル…プルルル…プツッ


〈姉ちゃん!!今までどこ行ってたんだよ!!〉


キイイイイン…


開口一番、一郎くんの怒鳴り声でした…


『ご、ごめんごめん、らむ…飴村さんが怖くて逃げ出しちゃって…』


〈それっ…は…こっちがわりぃけどよ…〉


『ごめんね…』


〈とりあえず、いまどこいんだよ、迎えにいく〉


『えっと…無我夢中で走ったから場所わからなくて…』


〈…だよな〉


『…あ、でも!観音坂さんがいるから!』


〈は!?〉


わたしが独歩に視線を向けると、独歩は不思議そうにこっちを見る。


『観音坂さんに場所聞いて帰るね!』


〈いやちょっと待て!なんでそこに観音坂さんがおんだよ!?〉


『え?偶然会って…』


〈…はぁ、まぁいい。そこに観音坂さんがいるんだな!?〉


『え?いるけど…』


〈なら代わってくれ〉


『え?うん…すみません、観音坂さん、一郎くんが代わってと』


「え、俺に?はい、もしもし…」


しばらく会話したあと、観音坂さんはため息をついて通話を切ったようだった。


「…はい、携帯お返ししますね」


『はい…あの、どうかしました?』


「いえ…今から迎えに来るそうですよ」


そう言った観音坂さんはすこし苦笑を溢していた。


『そ、そうですか…』


そううなずいて視線を下げると、ふわりとなにかが体にかけられる


『え…?』


「すこし、冷えてきたので」


独歩が自分のジャケットを私にかけてくれたのだ


「…その、三十路のおっさんのジャケットなんてかけられたくないかもしれないけど、風邪引いたら困るし…」


モゴモゴと言い訳をする独歩に、思わず笑みがこぼれる


『…ふふ』


「…!…やっと笑ったな」


『えっ…』


驚いて思わず口に手を当てると


独歩は驚くほど穏やかに笑う


「…やっぱり、貴女は笑ってたほうがいい」


『…!』


「…!…って、あの、その…先生も!言うと思いますし!」


独歩が顔を赤くして慌てて弁解をする


それにつられて私も赤くなる


『そ、そうですよね…』


「は、はい」


二人して真っ赤になって、黙り混んでしまった



…でも、その沈黙も、不思議と嫌じゃなかった




心地好い沈黙

(…優しいな)