兄の葛藤

「おーい!姉ちゃーん!観音坂さーん!」


あれからしばらくして、一郎くんがやって来た。


「…っはぁ、はぁ、はぁ…」


…なんかデジャヴ…


『な、なんかごめんね…』 


一郎くんの背中をさすさすとさする 


「はあ…はあ…っ、別にいい…」


漸く息が落ち着いたらしい


「…観音坂さん、姉ちゃんの保護、ありがとうございました」


「…いえ、たまたまこの近くにいたので」


…バチッ


…あれ?なんだか二人のあいだに火花が散ったように見えたのは気のせい…?


「ほら、姉ちゃん、帰るぞ。二郎と三郎も心配してる」


『あ…』


また高校生と中学生の二人に心配かけてしまったのは、申し訳ないな…


「…申し訳ないと思うなら、今日は四人で寝ようぜ」


『え?』


そんなんでいいなら全然いいけど…って、あ


『観音坂さん!ありがとうございました!』


ばっと後ろを振り返って頭を下げた


「いえいえ。俺で役に立てたなら」


『役に立つどころか、とっても助かりました…!』


「はは、ならよかったです。…それでは、また」


『はい、また』


観音坂さんに別れを告げて、一郎くんと帰路に着いた


「…観音坂さんとなにしてたんだよ」


『え…?』


一郎くんが拗ねたように言う


「俺には言えないことしてたのか?」


『いや、なにしてたもなにも、話聞いてもらってただけだけど…』


「…」


なんだか言葉数が少ない一郎くん


私より位置の高い顔を覗きこむと、なんだか拗ねたような顔


『…もしかして、嫉妬してる?』


「!!…うるせぇ」


『…!…ふふ』


出来たばかりのお姉ちゃんを取られて悔しいってところかな


「…たぶんお前の考えてるのは違うぞ」


『えー?』


「……ったく」


『わっ!?』


頭をわしゃわしゃと撫でられる


「…俺は、姉ちゃんとしても、一人の女性としても…」


『ん?』


「…いーや。早く帰ろうぜ。今日の晩飯は俺が作るからさ」


『え、いいの?』


「いいんだよ」


『わーい!一郎くんのご飯!』


一郎Side


『わーい!一郎くんのご飯!』


無邪気に笑うこいつを、姉ちゃんを…


何よりも守りたいと、思った


こんな感情初めてだった


初めてすぎて、正直まだ困惑してる


でも、これ以上の気持ちはねぇ気がすんだよな


渡したくねぇ


…二郎にも、三郎にも


ごめんな、こんな兄ちゃんで





兄の葛藤

(兄「I」の葛藤)