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入試の時には「紛争地域にでも放り込まれたのかと」なんて言った私だが、この状況こそまさにそれだった。周りを敵に囲まれて、逃げることも叶わない。にやにやと嫌な笑みを浮かべる彼らが恐ろしくてたまらない。奴らは危害を加える気どころか、きっと私たちを殺すつもりでいるのだろう。だって私をここまで飛ばしたあのモヤの人は「オールマイトに息絶えて頂きたい」とまで言っていたのだから。それ以外を殺すなんて、きっと彼らにとってはついでくらいの感覚だろう。

だけど私は自分の命の他に、もうひとつ心配しなければならないことがあった。

――――個性を見られてはいけない。

きっとすぐに先生達が助けに来てくれる。だからそれまでは何としてでも生き延びる。そして個性も隠し通す。暴発だけはしないようにと、両手を固く握りしめた。

「おいババア!戦えねぇなら下がっとけ!」
「バッ、……こんな時くらい普通に呼んでよ!」
「なまえさん!いいからこっち!」

爆豪くんと切島くんと同じ所に飛ばされたことは不幸中の幸いだ。1人じゃなくて本当に良かった。爆豪くんはこんな時でさえいつも通りの傍若ぶりで、頼もしいやら恐ろしいやら。

というか下がるもなにもそれ以前に足が震えて動けないんですが。それを察してくれたのか、切島くんが咄嗟に私の腕を引いてその背中に隠してくれた。いい大人が子どもに守られるだなんて実に情けない話だが、この状況で私が足でまといにしかならないのは事実だ。仮に「個性を隠せ」なんて言いつけがなかったとしても、私には戦う能力などないのだから。

「……ど、どうするのこれ」
「ンなのもん、殺るしかねーだろ」
「うそ、ホントに?大丈夫なの?」
「うっせぇな。黙って隅で震えとけ」

言われなくても既にそうなってるんですけどね。頭はパニックだし、手足の震えも止まらない。まるで自分の体じゃないみたい。どうして切島くんと爆豪くんが勇ましく敵と対峙していられるのか不思議なくらいだ。爆豪くんに至っては「ぶっ殺してやるよ」と凶悪な笑みを浮かべて敵を挑発しているけれど、これは止めた方がいいのだろうか。だって大人相手に戦うだなんて流石に――――なんて、そんな心配は杞憂だったようだ。

「……す、すごい」

2人が次から次へと敵を倒していく。それはもう物凄い勢いで。その姿にはどこか余裕すら感じられる。

「オラァ!!そんなもんかよ端役が!!」
「くっそ、どんだけいんだよ……!」

まだ安心出来る状況ではないものの、徐々に身体の硬直も解けていく。こちらの勝利が見えてきたからだろう。とは言っても私は相変わらず端っこから戦いを眺めているだけで、「頑張って!」なんて応援する余裕もないのだけれど。

そうやってハラハラと戦いの行く末を見守っていた時だった。

「テメェから殺してやるよ!!」
「……ッ!!」

一人の男が切島くんと爆豪くんの攻撃を掻い潜り、私に狙いを定め物凄いスピードで迫ってきた。それにいち早く気付いた爆豪くんが、咄嗟に私を押し退けて敵の顔面目掛けて爆破をお見舞いする。私は押された勢いでその場に倒れ込むわ目の前で起こった爆破にビビりあげるわで、見事に醜態を晒すしかなかった。いや、一般人としては普通の反応だと信じたい。

そして次の瞬間、目に飛び込んできた光景に目を見張る。爆豪くんの爆破を受けて沈む敵――――その反対側から別の敵が爆豪くん目掛けて攻撃を仕掛けてきたのだ。

ぷく、と頬を膨らませ、勢いよく何かを吹き飛ばしてきたその男に爆豪くんもすぐに気付いた。でも、間に合わない。完全に背後からの攻撃だったせいで、"振り向く"という動作により対応がワンテンポ遅れてしまったのだ。

「危ない……ッ!」

咄嗟に手が伸びたのは、それがたまたま手の届く範囲だったからなのか、それとも私にも正義感というものがあったからなのか。それは分からないけれど、まるで脊髄反射のように気付いたら手を伸ばしていた。

その"何か"が手に触れた途端、紙へと姿を変えてパサっと私の手に張り付いた。それから重力に従ってひらひら地面に落ちていく。ホッとしたのも束の間、頭上から爆豪くんの鋭い視線を感じて「やばい」の3文字が頭を占領する。彼に個性を見られてしまった。

「おい!大丈夫か!?」

先程攻撃してきた男は、どうやら切島くんが倒してくれたらしい。「大丈夫」という言葉が咄嗟に出てこなくて、代わりに拳をぎゅっと握る。落とした視線の先で、地面に落ちた紙を爆豪くんが踏みつけるのが見えた。

「……問題ねぇ」

そんな言葉が落ちてきたと同時に、彼の足元で紙がくしゃっと音を立てて形を変える。ぱっと顔を上げれば、爆豪くんの訝しむような両目と視線がかち合った。だけどそれも一瞬のことで、すぐに視線を逸らされる。

「これで全部か、弱ぇな」

次に落ちてきた爆豪くんの言葉に、え、と声が漏れそうになったのをどうにか耐えた。――――もしかして、知らない振りをしてくれている?

「なまえさん、怪我はないっスか?爆豪に突き飛ばされてたみてーだけど……」

伺うように私の顔を覗き込む切島くんに支えられて、なんとかその場に立ち上がる。どうやら軽く腰を抜かしたみたいで、上手く足に力が入らなかった。

「邪魔なとこにいるのが悪ィ」
「もっとやり方はあるだろ!」
「わ、私は大丈夫だから……!っていうか2人こそ!怪我してない?大丈夫?」
「大丈夫っス!」
「ケッ、こんな雑魚にやられるかよ」

そんな雑魚相手に私は腰を抜かしたんですけどね。なんて言葉は飲み込んで、代わりにハハハと乾いた笑みを返した。この子達が異常なだけと信じたい。普通ビビるしこんなに戦えないって。あ、そうかこの子達はヒーローの卵だもんな。そもそも素質が違うんだよ、凡人の私とは。

「っし!早く皆を助けに行こうぜ!」

そう言って仕切り直す切島くんに、ふとあたりを見渡す。大勢の敵達が折り重なるように地面に沈んでいる。これを高校1年生の2人がやったというのだから、雄英のレベルの高さを思い知らされる。いや、爆豪くんの言う通りこの敵達が本当に雑魚だったのか?どちらにせよこの2人でこの調子なら、きっと相澤先生も黒瀬さんも他の生徒たちだって無事なはず。というかそうであって欲しい。

「なまえさん、俺らはワープゲートの所に行きます!なまえさんは……」
「私も行く。皆あそこに集まるだろうし」

早く皆の無事を確認したい。きっと大丈夫とは思うけれど。なんて、それは自信というより最早願いにも似たものだった。

"――――映画やドラマとは違って都合よく正義の味方だけが生き残るわけではない"

いつかは理解していたそんな事実が、この時の私はすっかり頭から抜け落ちていたのだ。



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