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体育祭当日、まるでお祭り騒ぎのように多くの人で賑わっている様子に、なんだかいつもとは違う雄英の顔を見た気がした。"雄英バリア"と称される警備システムにより普段は部外者の立ち入りを禁じているから、本来ならこうして校内で一般人を見かけることはまずないのだ。その上今日はセキュリティ強化のため沢山のヒーローが巡回している。見渡す限りの人、人、人の光景にそわそわした。
「焼きそばとお茶」
「俺はたこ焼きな!あと焼き鳥とコーラと……」
「あ、コーヒーも」
さて今日の私の仕事と言えば、なんと体育祭が終わるまでは殆どない。強いて言えば実況を務めるこの2人の使いっ走りと言ったところか。なにせ私は無個性の設定なので、そこかしこに人がいる今日はいつものような運搬作業ができないのだ。他の先生達は何かしら役割を振られ忙しそうにしているので申し訳なさも感じるが、昨日まで馬車馬の如く働いたのだから気にしないことにする。
ただまぁ、実況席から離れられない2人のためにパシリくらいは甘んじて受けよう。そう思って2人の欲しい物リストが書き連ねられたメモに目を通す。
「ちょっと待ってください、多すぎません?どこも長蛇の列だから1つ買うだけでも大変なのに……」
「ほら、お釣りで好きなもん買っていいから」
「行ってきます!」
「現金な奴だな」
渡された五千円札を握りしめ、急いで解説室を出る。今から開会式が始まるから、きっと一時的に人が捌けるはずだ。その隙に買ってしまおうと、露店が並ぶ中庭へと急いだ。
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"せんせー 俺が一位になる"
会場外に設置された大型ビジョンからそんな声が聞こえた気がするが空耳だと思いたい。だけどその直後に聞こえてきた大ブーイングに、空耳でも気のせいでもなく現実なのだと突きつけられる。思わず呆れやら動揺やら色んな感情が混ざった「うわぁ……」という声が漏れた。
あの全方位に喧嘩を売るスタイルは一体何なんだ。相澤さんはアレを指導しなくていいのだろうか。見るからに生活態度に問題があると思うのだが、その面に関して爆豪くんを叱るところは見たことがない。やっぱり相澤さんの線引きはよく分からない。私には何かと厳しいくせに。
「おっ凄い量だなー、お使いか?」
「ただのパシリですよパシリ!ほんと人遣い荒いんだから」
「下っ端は大変だな!ほらこれオマケしといてやるよ」
「えっ、いいんですか?!嬉しい!」
気のいい露店のおじさんはガハハと笑ってベビーカステラを多めに入れてくれた。「ありがとうございます」「頑張れよ」そんな会話を交わしていると、おじさんの視線がふと私の背後にある大型ビジョンへと移り、その途端あんぐり口を開けた。
「うおお、なんだありゃ」
慌てて私も映像へと目をやれば、そこに映っていたのは氷に覆われたロボ・インフェルノだった。あの個性は多分、轟くんのものだ。
「……うっわぁ」
他の走者の障壁となるよう上手い具合に凍らせたのか、ロボ・インフェルノはバランスを崩して地面に崩れ落ちた。あの、これ本当に高校の体育祭ですか?デス・マーチとでも名称を変えた方が良いのでは?先生達は口々に「リカバリーガールがいるから大丈夫」と言うけれど、そもそも怪我が前提の時点で大丈夫じゃないのでは。というか保護者は何も言わないのだろうか。私が親だったらハラハラしすぎて失神してしまいそうだ。
「……大変な世界に来てしまった」
なんて今更すぎる独り言は、画面を眺める観客たちのどよめきによって掻き消された。
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「つ か れ た ー !」
「お疲れさん」
「ありがとななまえチャン!つか……量多過ぎねぇ?」
「いっぱいオマケしてもらいました」
両手いっぱいにぶら下げたビニール袋を机の上にどさりと置いて、空いたパイプ椅子に座る。障害物競走も終わり、次の騎馬戦までマイクが切ってあることはしっかり確認済みだ。
ほっとひと息ついてから、ポケットに入れていたお釣りを山田さんへとお返しする。「全部使って良かったのに」「いや流石に」なんて会話ののちに「じゃあこれやるよ」とやきとりを何本か分けてくれた。ここに来るまでにそこそこ摘み食いをしたことは黙っておこう。
頬杖をつきながら、先程買ったばかりのオレンジジュースを啜る。お行儀は悪いが非常に疲れたので許して欲しい。目の前に広がる競技会場を見下ろせば、生徒たちが騎馬戦のチーム決めをしているのが見えた。流石実況席、会場の様子がよく分かる。
「特等席を用意した」と相澤さんは言っていたけれど、その実私の席を確保し忘れていただけだと知っている。「私はどこに座れば?」と聞いた時「あっ」って言ってたもんな、「あっ」て。結果こんなにいい席を用意してもらえたからいいけれど。
「個性使用ありの騎馬戦って、これまた激しそうな種目ですね」
「まぁ……緑谷は大変だろうな」
「1000万ポイントですからね……誰ですかこんなめちゃくちゃな配点にしたの」
「ビッグイベントだぜー!?盛り上げるにはこういうサプライズも必要だろ!?」
雄英ってこういうお遊びが好きだよなぁとしみじみ思う。教師陣がヒーローしかいないので目立つものや派手なことが好きな人が多いのだろう。エンターテイナーと言ってもいい。相澤さんだけは別だけれど、山田さんや八木さんはまさにその部類だ。
「よーォし、じゃあ実況再開すんぞー」
山田さんの合図でカチリとマイクのスイッチが切り替わる。もちろん私に実況など出来るはずもないので、間違っても声がマイクに拾われないようにと静かに2人から距離を置いた。
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