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ついに最終種目である1対1のガチンコ勝負が始まった。一回戦目の緑谷くんと心操くんの対戦は割りと早くに勝負がつき、しかも山田さんに「地味な戦い」と言われてしまうくらいの内容だった。いくらガチンコ勝負とは言え無茶な戦いはしないものなのだろうか、なんてすっかり安心したのだけれど――――

「……っ、」

突然目の前に現れたあまりに巨大すぎる氷塊と、急激に下がった気温に肌を刺すような痛み。轟くんの個性の強さに加え自然への畏怖のようなものに襲われて、一気に身がすくんだ。食べようとして手を突っ込んでいた紙袋の中では、ベビーカステラがバサバサと紙に変わっていた。隣にいた相澤さんが「おい、個性」とマイクに拾われないよう小声で耳打ちしてきて、そこでようやく個性の暴発に気付いたのだった。

自然と客席から沸き起こったどんまいコールに倣うように、私も心の中で「どんまい」と瀬呂くんをいたわる。試合開始直後の一瞬で勝負がついてしまったし、何より規格外すぎる轟くんの技にこれはもうどうしようもない、どんまい、という感想しか出てこなかったのだ。

「あんなのアリなんですか?」「なんかもう……ズルくないですか!?」言いたい事は山ほどあるけど、マイクが入っているから言葉にすることも叶わず。だけどちらりと盗み見た2人の表情に、特に口をあんぐり開けた山田さんに、私と同じように衝撃を受けていると分かって少し安心した。だよねだよね、あんなの先生でも驚いちゃうよね。

私の中で轟くんの優勝を確信した瞬間だった。他の子達の"Plus ultra
さらに向こうへ
"があればまだ分からないけれど。でも、あれにどうやって勝つと言うのだろう。相澤さんの抹消でもなければ難しいような。

結局次の試合に進む前に、あの巨大な氷塊を溶かしステージを乾かすためトーナメントは一時中断となった。おかげでマイクが一旦切られたので、ここぞとばかりに2人に話し掛ける。

「あ、あ……あれは何なんですか!?」
「何なんですかも何もあれが轟の個性だ。お前もその目で見ただろ、戦闘訓練でビル一棟凍らせたのを」
「見ました、けど……ここまで大規模じゃなかったし……」
「そんな事やったのかアイツ!?お前のクラスすげー奴ばっかだな!」
「すごいっていうか最早チート級……」

そうやってひとしきり轟くんの能力の高さについて盛り上がったのちに、相澤さんがぽつりと呟いた。

「それより、気になるのは心操の方だ」
「あぁ、あの洗脳の個性の子ですっけ」
「アイツもいい個性だったよなー!緑谷の方が一枚上手だったけど。欲しい事務所は多いだろうな」
「心操にその気があるならヒーロー科への編入を推薦しようと思う」
「編入なんてできるんですね」
「かなり稀だがな」

正直なところ心操くんのことをそこまで評価する理由は分からなかった。だって彼の試合は緑谷くんに投げ飛ばされてそのまま場外判定という、実に呆気ない結果に終わったのだから。確かに心操くんの個性は強力なのかもしれない。だけどそれも緑谷くんに破られていたし、完璧というわけでもないのだろう。

「えっと、心操くんは何がそんなに……?」
「戦闘経験の差は仕方ないとして、とにかくあの個性は普通科にしとくのは勿体ないよ。もっと伸びるだろうしな」
「対敵で考えたら最高だよな!無血開城も余裕だろ?」
「発動条件が返事をするだけってのも良い」
「問題はそれがバレた時だよなー」
「ボイスチェンジャーを使えばあるいは……」
「スピーカー通しても成立するかだな」

なにやらヒーロー談義が始まってしまい、途端に話について行けなくなってしまった。よく分からないけれど、とりあえず心操くんの個性はヒーロー向きということなのだろう。ヒーローである2人がこうして盛り上がって(?)いるくらいだし。

それからしばらくして漸くステージが乾き、トーナメントが再開した。上鳴くんと塩崎さんの試合は文字通り瞬殺(山田さんはわざわざ2度もこの言葉を繰り返した)に終わり、飯田くんと発目さんの試合はもはや通販番組のようで。――――だから完全に気を抜いてしまっていた。個性使用ありのガチンコ勝負が一体どんな結果をもたらし得るかということに。

(もー無理無理無理!見てるだけで痛い!)

まず芦戸さんが青山くんにアッパーかまして失神KOさせた辺りで「うわぁ」とは思った。まぁ、これは個性関係ないけれど。八百万さんと常闇くんの試合はまだ大丈夫だった。常闇くんの先手必勝で終わり特に怪我もなさそうな様子だったから。

問題は切島くんと鉄哲くんだ。個性がダダ被りのその2人はひたすらに殴りあっていたのだ。途中から見ていられなくなって目を覆ったのだけれど、すぐさま相澤さんからチョップを食らった。ギプスのせいでこれが痛いのなんの。どうやら目を逸らすなという事らしいが、こちとらボクシングやK-1でさえ見ていられないのに、こんなもの耐えられるはずもない。

――――だけど彼らの試合はまだ序章に過ぎなかったのだ。2人の試合が引き分けに終わり、そうして次の組み合わせを聞いただけでその予感はした。

爆豪勝己 vs 麗日お茶子

見たくない試合だなぁと思ったのは、きっと私だけではないはずだ。



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