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多分、私は心のどこかで彼らのことを"ただの高校生"だと思っていた。かつての自分の記憶と重ね合わせて、つい彼らもそれと同じだと勝手に思い込んでいたのだ。学校帰りにファミレスで談笑したり、一丁前にお洒落に目覚めて制服を着崩してみたり、恋愛相談なんかしてみたり。そういう、普通の高校生なのだと。
入試の時から今日のこの日まで、たった数ヶ月とは言え彼らのことを近くで見てきたのに、これっぽっちも理解していなかった。私は一体彼らの何を見ていたのだろう。途端に自分のことが恥ずかしく思えてきた。
(……麗日さん)
あんなにボロボロになりながら、一体何が彼女をあそこまで駆り立てるのか。いや、そんなものは分かりきっている。彼女はヒーローになるためにあそこにいるのだから。きっとそこに"夢"以外の答えはないのだろう。体育の授業で髪が乱れるのを気にしていたような私とは丸っきり別の次元にいるのだ。
そんな彼女を容赦なく迎え撃つ爆豪くん。会場からは激しいブーイングが起こり始める。だけど私には彼のやっている事が酷いだなんて到底思えなかった。だって麗日さん、少しも諦めてない。爆豪くんだって余裕綽々どころかずっと彼女の動きに警戒している。
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」
――――遊んでる?
どこをどう見たらそう見えるのか教えて欲しい。2人とも真剣そのものじゃないか。
荒唐無稽なその侮辱に、ぶわりと怒りが膨れ上がる。あまりにも腹が立って勢いよく立ち上がれば、座っていたパイプ椅子がガシャンっと大きな音を立てて床にぶつかった。それと山田さんの叫び声が響いたのがほぼ同時。はっとして彼の方を見れば、今まで気だるげに体育祭の様子を眺めていた相澤さんが、初めてマイクを手にする姿があった。
「何すん……!」
「今遊んでるつったのプロか?何年目だ?」
相澤さんの声色には呆れと怒りが滲んでいた。その淡々とした口調が余計に張り詰めた空気を感じさせる。
「ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう。本気で勝とうとしているからこそ手加減も油断も出来ねぇんだろが」
その言葉に客席がしんと静まり返って、かと思うと彼らの視線が上空に集まり始めた。釣られるように私もその視線の先を追えば、そこには無数の瓦礫が宙に浮いていた。
(あれは……麗日さんの個性)
そこで初めて、彼女がただがむしゃらに爆豪くんに向かっていた訳ではないと理解する。爆豪くんの個性を利用して、あの"武器"を蓄えていたのだ。彼には疎か、観客席にいるヒーロー達にすら悟らせずに。
「勝あアァアつ!!」
麗日さんの咆哮が会場に響き渡る。彼女の個性が解除され、大小様々な瓦礫が重力に従って物凄いスピードで落ちていく。その光景を目の当たりにしても不思議と恐怖心は生まれなかった。変な話、そんな暇も余裕もなかったのだ。
私は「頑張れ、頑張れ」と祈るような気持ちでその様子を眺めていた。それは麗日さんに対してなのか、爆豪くんに対してなのか……多分、その両方に。どちらにも勝って欲しかった。そんなことはありえないと分かっているけれど。
ドーンっと凄まじい音が響いたのはその直後のことだった。あのおびただしい数の瓦礫を、爆豪くんはたった一撃で往なしてしまった。それでも、フラフラよろめきながらも麗日さんは爆豪くんに向かって走り出す。
――――結局、すぐにその場に倒れてしまったけれど。彼女はとうに限界を迎えていたのだ。
自分の持ちうる最大限の力をもってしても敵わない圧倒的な実力差。それってどれだけ悔しいことなのだろう。そこまでの努力をしたことのない自分には到底分からない世界だ。
爆豪くんの勝利がアナウンスされ、それからステージ修復の為に再び試合が一時中断となった。カチリと音を立ててマイクがオフになったのを確認してから、相澤さんと山田さんの方を見る。
「……ヒーローって、凄いんですね」
その凄さを、ほんの少しではあるけれど垣間見た気がした。私の言葉に2人はきょとんとした顔を見せる。だけどそれも一瞬のことで。
「HA!?今更かよ!」
「アイツらはまだヒーローじゃないけどな」
「…………」
感慨深い気持ちで伝えた言葉は、酷く呆気ない態度で返されてしまった。――――あの、私、今めちゃくちゃ感動してたところなんですけど?
「人が感傷に浸ってるのに……!もっとこう、なんかないんですか!?」
「umm...大体俺たちにとっちゃ今更っつーか、まだまだっつーか」
「3年の試合見てくるか?これの比じゃないぞ」
「それはそれ!これはこれ!私は彼らに感動したんです!」
「これで分かったつもりになられてもなー」
「麗日さんの攻撃気付かなかったくせに」
「オーイ!!それは言わねぇ約束だぜ!?まぁあれだ!こいつらはまだ荒削りなんだよ!これからもっと伸びるぜ!」
そう言ってビシッとステージを指さした山田さんに、自然と私の視線もそちらを向く。そこには担架で運ばれていく麗日さんと、それを見つめる爆豪くんの姿があった。そうだ、彼らはまだ夢の途中なのだ。麗日さんはきっと悔しくてたまらないだろうけど、決してここがゴールなわけじゃない。
"Plus ultra
"――――それを体現する彼らの姿を、これからも傍で見守りたいと思った。
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