24
職場体験が終わり、一週間ぶりにヒーロー基礎学の授業が行われたその日。たった一週間空いただけだというのに、皆と会うのがなんだかとても久しぶりのことのように思えた。心配していた飯田くん、緑谷くん、轟くんの怪我は早くも完治していて、治癒系個性の強さは勿論のこと、彼らのタフさにも驚かされるばかりだ。
授業内容は救助訓練レースで、私の役割はタイム測定と敵に襲われた一般人の役だった。八木さんに「HELP!」と書かれた首から下げるボードを渡されて、これ要るのかな、なんて思いつつも素直に一般人役に徹した。とは言ってもゴール地点に座ってストップウォッチを握っているだけだったけれど。
「三日会わざれば刮目して見よ」とはよく言ったもので、皆格段に動きが良くなっていた。特に緑谷くんの成長が顕著で、それには私だけでなく皆が驚いていたくらいだ。それにいたく感動しつつも、頭を過ぎるのは先日の山田さんとの会話のことで。
「……ねぇ、ちょっといいかな」
授業終わり、声を掛けるならこのタイミングしかないと意を決して呼び止める。振り返った飯田くんと視線がぶつかって、「緑谷くんと轟くんも」とすぐ近くにいた2人にも声を掛けた。3人とも不思議そうな顔をしつつも、揃って私の方に身体を向けてくれた。3人と向かい合った途端、なんだか怖気付いてしまって思わず視線を足元へと落とす。
「何かお手伝いすることがありますか?」と尋ねる飯田くんに「そうじゃなくて」と慌てて否定して、ふうとひとつ息をつく。
「ヒーロー殺しと戦ったんだってね」
私の言葉が予想外だったのか、それとも後ろめたいところでもあるのか、3人ともがぐっと口篭った。この件はオープンな情報なので1-Aの子達も当然知っているはずだけれど、皆はこの3人に一体どんな言葉を掛けたのだろう。
心配か、労いか、それとも賞賛か。今から私が言おうとしていることを、既に伝えた子はいるだろうか。もしいたのなら、私にまで同じ事を言われて煩わしくはないだろうか。そんな心配が頭を過ぎるけれど、山田さんの言葉を胸に勇気を振り絞る。
「大怪我したって聞いて心配した。もしかしたら死んでたかもと思うと凄く怖かった。……ヒーロー殺しの動画も見たよ。あんなの相手にしたんだって思うと余計に怖くなった。……その、あんまり無茶なことは、」
「敵と戦うなって言いてぇのか」
眉を寄せてそう言った轟くんを、緑谷くんが「轟くん、まずは話を聞こう」とたしなめる。轟くんが苛つくのもごもっともだ。ヒーローの卵に一体何を言っているんだと自分でも思うけれど、どうにかこの気持ちが上手く伝わって欲しいと必死に言葉を選ぶ。
「ヒーローを目指す以上、多少の無茶も必要だってことは分かってるつもり。でも、無謀と勇敢は全く別物だよ。特に緑谷くん、私は貴方のことが怖い」
「! え、と……それは、」
「正直、死に急いでるようにしか見えないよ。ヒーローのボロボロの姿なんてきっと誰も見たくない。親御さんなんて特にそうだよ。飯田くん、お兄さんのことがあった君ならこの気持ち分かるでしょ」
「っ、はい」
「待てよ、俺らが居なきゃ……、親父が来るまで時間稼ぎしてなきゃ死人が出てた。何も知らねぇくせに、」
「何も知らないよ。だから怖いんだよ。私の知らないところで、知らない内に、なんて……」
想像しただけで恐ろしい。いつも通りの生活を送っていたら突然「誰々が入院しました」「亡くなりました」なんて寝耳に水の話を聞かされるだなんて。かと言って、知っていたら良いという話でもないけれど。
「だから、その……君達ならきっと大丈夫って思わせて欲しいの。もっと強くなって安心させて。無茶をするのはそれからだよ。ヒーローは皆を笑顔にするお仕事でしょ?」
私の言葉に彼らは三者三様の反応を見せた。緑谷くんは分かりやすく顔を青くして、飯田くんは険しい顔で自身の拳を見つめた。轟くんがそんな飯田くんの様子をちらりと盗み見たことで、ヒーロー殺しの件はおそらく飯田くんが暴走したのだろうと何となく察しがついてしまう。
そしてその場がしんと静まり返ってしまったことに「やっぱり余計なことを言ったかな」と一気に後悔が押し寄せてくる。私ったらなんて偉そうに説教じみたことを、と胃が絞られるような感覚に陥る。
「あああ、ごめんね私ヒーローでもないのに偉そうに……!なんていうかほら、心配で堪らなくてさ!死んじゃったらどうしようって怖くて!」
「あ、いえ、なまえさんの言うことはごもっとも、」
飯田くんが言い終わらないうちに、どうにも我慢できなくなってがばりと3人に抱き着いた。「うえええっ!?」と緑谷くんの叫び声が耳に響いてキンキンしたけれど、それを無視してぎゅっと抱き締める腕に力を込める。
「でも、3人とも無事で良かったぁ……!」
緑谷くんの声がぴたりと止まって、それから飯田くんが「すみませんでした」と小さく零した。抱き締めた彼らの向こう側に八木さんの姿が見えて、にっこり微笑む彼に少しだけ照れくさくなった。
- 24 -
*前 ◇ 次#
top