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学生にとって一番億劫なイベントとは何か。それは言わずもがな学校のテストである。いくら独特な校風をもつ雄英と言えども、一般的な高校と同じように夏休み前には期末テストが行われる。テスト前に死んだ顔をしている生徒といつも通りの生徒、それを高みの見物する私。自分が学生の頃、先生からはこんな風に見えていたのかなぁ、なんて思ってもみたり。とりあえず芦戸さん上鳴くん、頑張って。

私がここまで他人事でいるのは、自分にできることがなにもないからに他ならない。正直彼らの方が頭もいいから勉強なんて教えられないし(小テストの丸つけの度にその現実を突きつけられる)、実技などもってのほか。そういうわけで期末テストに関してはほとんど生徒と関わることなく、いたって通常通りの日々を過ごした。

そして期末テストが終わるとついに夏休みに突入する。かと言って多忙を極めるヒーロー科が夏休みを休みとして満喫できるはずもなく。というのも、夏休みには林間合宿が行われるのだ。個性の強化訓練と聞いていたから私は学校にお留守番、というか普通に夏休みかな――――そんな予想は見事に打ち砕かれた。

「……私が合宿参加して何するんですか」
「なんだ不服か」
「学校で事務パートしてた友達は夏休みあったのに……」
「残念だったな」
「ええ、とてもね!!」

バスに揺られながら、窓の外をぼんやり見つめる。一体どうしてこうなった?合宿での個性訓練など私にできることはないはずだけれど、嫌な予感しかしない。相澤さんのことだから絶対むちゃくちゃな仕事を振ってくるはずだ。入試や体育祭がいい例だ。それを考えると憂鬱で仕方がなかった。だって夏休みは1ヶ月丸々だらだら過ごしてやると腹積もりしていたのだから。

「本当は同行の予定はなかったんだがな。死柄木が緑谷に接触してきたことを鑑みて、合宿に参加した方が安全だろうと判断した。プロヒーローが常に付き添う形になるからな」
「また敵連合!私の夏休みを台無しにして……ぶっ殺してやる……!」
「出来ることならそうしてくれ」
「出来るわけないでしょ!!」

私の心からの叫びは「休憩だ。降りるぞ」と実に雑な形でかわされた。不貞腐れつつ「トイレは別にいいです」とその場に居座ろうとしたものの「いいから降りろ」と膝を彼の膝でゴスゴス小突かれて、生徒達と共に渋々バスを降りた。そして目の前に広がる壮大な自然に、いい景色、と見とれたその時、

「煌めく眼でロックオン!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」

まるで戦隊モノ?のような掛け声と共に2人の女性(とそれを傍観する男の子)が現れた。なんでも林間合宿のお世話をして下さるプロヒーローらしい。そしてこの一帯は彼女達の私有地だとか、シークレットとされていた宿泊施設はここからずっと先にある山の麓だとか、そんな説明を聞かされる。ふむふむと彼女達の話を聞いていると生徒達が徐々にざわつきはじめたのが分かって、どうしたのだろうと辺りを見渡す。そこへ相澤さんの言葉が落とされた。

「この合宿期間中、個性の暴発させるなよ」
「え、……何ですか急に?」
「まぁあれだ、死ぬなよ」

どういうこと?と聞き返す暇もなく、突然地響きが鳴りはじめた。まさか地震、と思ったのも束の間、大きな土砂が襲い掛かってきて逃げるまもなくそれに巻き込まれた。そのまま駐車場の奥、つまりは崖の方へと土砂に流される。

「わ、ぷッ……!ちょっ、なに!?」

視界の端で、先程現れた女ヒーローの一人が地面に両手を付いている姿が見えた。どうやらこの地鳴りと土砂は彼女の個性によるものらしい。――――いや、どういう状況!?

このままでは崖の下に叩きつけられる、と思いきや上手く個性をコントロールしてくれたのか土砂がクッションとなり無事に地面へと辿り着いた。それからすぐに、個性を発動した女性とは別の女性の声が上から降ってくる。

「今から3時間!自分の足で施設までおいでませ!この"魔獣の森"を抜けて!!」

周りを見る限り、生徒たち全員土砂と共に崖の下へと落とされたようだった。どうやら既に合宿訓練は始まっているらしい。……それは理解できるが、どうして私まで一緒に落とされてしまったのか。いやいや私もバスで移動でしょ、どう考えても!そう思って崖の上を睨みつけるものの、上にいる人達は私をここから拾い上げる気はないようだ。

「マジュウだー!!?」
「え、っ!?」

誰かの叫び声に咄嗟に振り返れば、そこにはSF映画にでも出てきそうな怪物が佇んでいた。そしてこちらに狙いを定めると、その巨体を持ち上げ襲いかかってきた。

その迫力に、巨大さに、恐怖が許容量を越えて思わず腰を抜かす。尻もちと同時に地面へ手を着いてしまったけれど、こんな状況でも個性が暴発することはなかった。これも相澤さんとの地獄の訓練の賜物――――なんて、今はそんなことはどうでもよくて。

「う、あ……あ、」

地面に転がったまま叫び声を上げることすら叶わない。頭が真っ白になり、ただただ唖然とその怪物から視線を外せずにいると、私の横を物凄いスピードで何かが通り過ぎていくのが分かった。それが緑谷くん、爆豪くん、轟くん、飯田くんの4人だと気付いた時には、彼らは既にその怪物を蹴散らしていた。

「た、たすかった、」
「大丈夫スか!?……つーか何でなまえさんまで?」
「……分かんない。何も聞いてないの」

傍に来てくれた切島くんに支えられてどうにかその場に立ち上がる。この状況の余りの恐ろしさに泣きたくなったのをぐっと堪えた。なにせ私ほど狼狽えている人は誰もいなかったから。ここで唯一の大人である私がべそをかくわけにはいかないと、変なプライドが働いたのだ。

「ヒーローたるもの一般人を守りながら戦えということだろうか」
「ケッ、足引っ張っんじゃねーぞババア。精々はぐれねぇよう着いて来いや」
「ちょっと爆豪!なまえさんは無個性なんだから守ってあげなきゃ!」

芦戸さんの言葉にどきり、と心臓が嫌な音を立てる。爆豪くんと目が合って、それから「チッ」と大きな舌打ちをされて視線を逸らされた。ああもう、本当に恨むぞ、相澤さんめ。



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