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あの女性ヒーローが"魔獣の森"と呼んだ最早ダンジョンと化した山の中へ突如放り込まれ、生徒達と共に徒歩で施設に向かうことになった私。"自分の足で施設までおいでませ!"と彼女は言っていたけれど、The一般人の私がこんな険しい道を歩き続けられるわけもなく。

「本当申し訳ない……ごめんね」
「これも訓練ですから」

障子くんにおぶさられ、道なき道を進んでいく。大の大人がなんと情けないことか。ひとつ言い訳させてもらうなら、これでも最初の数時間は自分の足で歩いたのだ。

当初言われていた3時間であれば自力で歩ききれたと思う。だけど3時間歩いたところで目的の施設に辿り着く気配は微塵もなく、皆に随分と遅れをとってしまったのだ。最初は生徒達の提案の度に遠慮していたのだけれど、そんな余裕すらなくなる程に体力を使い果たしてしまった。そして何より私のせいで到着が遅れることも申し訳なかった。

かわりばんこで主に身体の大きい男の子に背負われながら、余りの申し訳なさにいたたまれなくなった――――なんて、それも最初のうちだけ。いや、生徒達への申し訳なさはもちろんあるのだけれど、それ以上の感情が溢れてしまったのだ。

「なんっで私まで落とされたの?!こちとら一般人よ、一般人!信じられない!」
「相澤先生、やることがえげつないですよねー」
「だよねだよね!訓練のための一般人役だったとしてもさ、一言説明あってもよくない?」
「ていうか普通に危ないですよ!なまえさんが怪我でもしたら大変なのに」
「労災よ労災!帰ったら労基署に駆け込んでやる!」
「テメェそんだけ騒ぐ元気あるなら自分で歩けや!!」
「アッごめんなさいそれは無理です」

ヒートアップしていた悪口を咄嗟に飲み込んで、障子くんの背中で縮こまる。口は元気だけど足はもう限界なのだ。足が棒になるとはまさにこのことだと身をもって学んだ。全然学びたくなんてなかった。

芦戸さんと葉隠さんが喋りやす過ぎて、ついついお喋りに夢中になってしまった。というか皆元気すぎやしないか。ただ歩くだけでなく、高頻度で現れる魔獣と戦いながら進んでいるというのに。

若いって良いなぁ、そして流石ヒーローの卵。――――そう思っていたものの、当然だが彼らにも体力の限界というものはあるらしい。というか一日中このダンジョンを進んでいればそれも当たり前か。ようやく目的地に着いた頃には、身体疲労と個性の過剰使用でみんな息も絶え絶えになっていた。



「うわぁん、ご飯が美味しいよー!相澤さんの馬鹿ァ!覚えてろこんちくしょう!!」
「情緒がめちゃくちゃだな」
「あなたご自分が何したか分かってます!?一介の!用務員に!!」
「課題はクリアできたんだろ。努力の成果が出てるじゃないか」
「今褒められても素直に喜べない!」

課題、とは崖の下に落とされる前に言われた"個性を暴発させるな"のことだろう。確かにそれはクリアした。あれだけ精神的にも身体的にもギリギリの状態だったのに、だ。それもこれも相澤さんの訓練のおかげ――――なんて騙されないぞ、そもそもは相澤さんのせいでこんな大変な目に遭ったのだから。

生徒達の方から「なまえさんめっちゃ怒ってる」と笑いを含んだ声が聞こえてきた。ええ、怒ってます。怒ってますとも。こんなに疲弊したのは人生で初めてだし、ぽこぽこ出てくる魔獣は敵連合の襲撃並に怖かったし、生徒達には足を引っ張ってばかりで非常に申し訳なかったし。とにかく心身ともに尋常じゃなくしんどかったのだ。それもこれも全てはこの男、相澤消太のせいである。

「やっぱさー、ギャフンと言わせたいよねー」
「相澤先生をですか?中々手強そうですわ」
「えー、八百万さんは相澤さんに勝ったんでしょ?」
「それは……先生も手加減されていましたし、轟さんがいらっしゃってこその策でしたから」
「そっかぁ、じゃあ轟くんに凍らせてもらおうかなぁー」
「ですが先生の個性が強力ですので、」
「ヤオモモ、だめだめ。なまえさん頭働いてないから」

ところ変わって露天風呂。食事を終えお腹も膨れたので、私も皆と一緒に温泉に浸かることにした。これが気持ちいいのなんのって。これで部屋に帰ってお酒が飲めれば尚良し。まぁ、そんなこと出来るはずもないけれど。

「あー、だめだ疲れ過ぎて何も考えらんない。このままここで寝たい」
「なまえさん、溺れるから駄目よ」
「もう1mmも動きたくない。髪乾かすのめんどくさい。ビール飲みたい」
「駄目な大人だ」

蛙水さんに窘められ、耳郎さんには軽く貶される。これではどちらが大人か分からない。元々だらしのない人間ではあったが子どもの前でくらいちゃんとしなきゃと思っていたのに、今はそんな気力もなかった。

そうやってただボーッと温泉に浸かっていると、男湯の方から「峰田くんやめたまえ!!」という飯田くんの声が聞こえてきた。

「うわ、出たよ峰田」
「ほんと懲りんよなぁ」
「ヒーロー以前に人としてサイテーだよね」

皆も男湯の様子を察したらしく、早速峰田くんへの罵倒が始まった。彼女達が言うには以前も女子更衣室を覗こうとしたことがあったらしい。もはや犯罪者じゃないか。

結局峰田くんは見張りをしてくれていた洸汰くん(マンダレイさんの親戚らしい)の手によって再び男湯へと突き落とされた。「くそガキィィィィイ!!」と峰田くんの叫び声を聞きながら、これも青春だなぁ、なんてことを思った。



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