03


今日はとある会議に参加するように言われ、この学校で1番広い会議室へと連れて行かれた。その部屋を選んだことから考えるに、どうやら教師全員が参加するものらしい。会議室に着くや否や相澤さんに資料の束を手渡され、机上配布するよう指示された。すっかり雑用扱いである。

(……入学試験)

資料を配りながら、その題目を確認する。どうやら入試に向けての打ち合わせをするらしい。それに私も参加するということは、きっと運搬の仕事でも割り振られているのだろう。

全て配り終えた頃にぞろぞろと先生たちがやってきて、思い思いの席に着席し始めた。私はどこに座れば、と助けを求めるように相澤さんの方をちらりと盗み見れば、ちょいちょいと手招きをされて彼の隣に座るよう促された。そそくさとその席に着座し待つこと数分、根津校長がやってきて打ち合わせが始まった。

入試のタイムスケジュールに担当業務の確認、注意事項etc...どんどん話が進んでいく中で、とある懸念が浮かび上がる。

「確認事項は以上となりますが、何か質問のある方は?」
「はい!」

香山さんの言葉に、咄嗟に手を挙げる。それはもう天井を突き刺す勢いで真っ直ぐに。

「はい、なまえちゃん」
「前日準備、当日準備、それから実技試験中の役割に……全ての試験会場に私の名前があるんですが何かの間違いでは、」
「ない」

おそるおそる尋ねた質問の答えは、私のすぐ隣から飛んできた。それも若干被せ気味に。

「事前準備はまだしも、実技試験って10分ですよね!?しかも試験会場7ヶ所!それを全て担当しろと?!あっ、もしかしてこちらの方は皆分身できるとか……?あいにく私は、」
「そんなわけあるか。よく見ろ、試験開始時刻はずらしてある」
「だとしても各会場かなり離れてるじゃないですか!移動間に合いませんよ!」

それぞれの会場は一つの街を模しているので、それはそれは結構な広さなのだ。仮に全速力で走ったとしても隣の会場まで20分はかかるだろう。そしてその移動を6回も繰り返す程の体力は私にはない。というかそもそも20分も走り続けられない。ここにいるヒーロー達と違って、私は万年デスクワークの一般人なのだから。

「みょうじさん、原付の免許は?」

そう会話に割り込んで来たのは根津校長だった。人間ですらないこのネズミ校長、雄英高校の可愛いマスコットと思いきや、その実"ハイスペック"という個性持ちのめちゃくちゃ有能な方である。

「普通免許は持ってるので原付も大丈夫です、けど」
「ではこの試験関連は学内の原付移動を許可しよう。特別対応さ!」
「他の世界で取った免許も有効なんですか?」
「私有地だから問題はないさ!」
「えええ……」

かなり強引な話だが、ここまで練られている内容が今更ひっくり返ることはないだろう。しかし原付利用が許可されたとは言え、かなりハードな仕事であることに変わりはない。いや、ハードなだけならまだしも、やり遂げられる自信がない。

「君には申し訳ないけど、経費削減なのさ」
「経費、削減……」
「試験に使用するロボットの運搬費がかなりの費用だからね。君がやってくれれば――――そうだね、軽く1000万の節約になる」
「いっせん……まん……」

そんな数字を出されてしまってはもうNOとは言えない。だけど一つ言わせてもらうなら、そんな大金が動くような仕事を私に担わせるのもどうなんだ。私はここの正職員でもないのに。

「まァまァ、なまえチャン。俺も手伝うから頑張ろうぜ?」

慰めるようにそう言ってくれた山田さんに感謝の気持ちが湧いて出たところで、相澤さんの「お前は実技試験の説明があるだろうが。それこそ分身でもする気か」という正論すぎる正論が飛んできた。

「こいつはシヴィー!悪ィななまえチャン、頑張ってくれ」

あっさりと身を引いた山田さんに肩を落とす。まぁ仮に彼が手伝ってくれるにしても、やってもらえることは殆どないのだが。私の個性ありきの運搬になるから、1番大変な会場移動からは逃れられないのだ。

遠隔で個性を使用できたらいいのに。もしくはワープの個性をもった先生がいたらいいのに。いやここはサポート科の埋島さんに何か発明してもらって……最悪、生活指導の犬井さんに担いで運んでもらう?いや、それなら原付の方が早いかもしれない。

結局は先程の根津校長の提案に辿り着いて、覚悟を決めるしか道は残されていなかった。

「誰ですかこんな提案したの……」

ため息まじにぼそりと呟いた言葉に、先生方の視線が相澤さんに集中したのを私は見逃さなかった。



「これとこれ、それからこれを紙にしてくれ」

ついに入試前日となったその日、朝からまるで軍事施設のような倉庫に連れていかれてそんな指示を受けた。
「これ」と簡単に言ってくれるが、彼の指差す先には何百何千というロボットが並んでいる。資料でその数は把握していたけれど、こうやって目の前にすると圧巻である。

「この量、今まで入試の時どうしてたんですか?」
「会場まで移動するよう指示するだけだ」
「え、今回もそれで良かったのでは……」
「燃料費だけで馬鹿にならないんだよ。言っただろう、経費削減だ」

「さっさと始めるぞ」と投げやりに言われ、渋々作業を開始する。とは言ってもひたすらロボットに触れて紙に変えていくだけだ。それを相澤さんが拾ってダンボールに詰めていき、満杯になったダンボールを他の先生方が会場へと運んでいく。実に地味な作業である。

「ていうか中学生がこれと戦うんですか?怪我人とか死人出ません?」
「怪我人は出るが死人は出ないよ。そうプログラムされてる」
「それでも大問題のような……」
「怪我が怖くてヒーローが務まるか」
「そりゃそうでしょうけど」

淡々と手を動かしながらも、単純作業なのでお喋りをしながら進めていく。「私語は慎め」みたいな雰囲気じゃなくて良かった。相澤さんが話し相手になってくれていることも助かる。如何せんこうやって黙々と作業をするのは苦手なのだ。

「そんなことを言ってたらロボ・インフェルノを見たら卒倒するだろうな」
「ロボ・インフェルノ……あぁ、0ポイントのやつでしたっけ。そんなにヤバいんですか?」
「まぁ見てのお楽しみだな」

そうして倉庫内の全てのロボットを紙へと変えたのち、別の倉庫に格納されているロボット・インフェルノを見て絶句したのは言うまでもない。



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