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「hmm...それはちょっとなァ」

入試に向けての事前打ち合わせのさらに前段階、その会議資料を作成していた日のこと。俺が提案した内容にマイクは納得しかねる様子で首を捻った。

「こう言っちゃなんだが、いくらうちで保護してるとは言えなまえチャンは部外者だろ。あんまり重要な仕事を任せるのはどうかと思うぜ」
「もちろん常に誰か付き添うようにする。ま、基本は俺になるだろうがな」
「……なんでそこまでして?」
「あいつの個性の上限を探りたい。訓練の感じじゃ底なしに見えるからな」

ヒーロー科実技試験の要と言ってもいい仮想敵ロボット。俺の提案は彼女の個性を軸にその運搬を進めるというものだった。実際彼女の個性は物を運ぶのに適しているし、最も効率的かつ低予算で作業を進められる案であることには違いない。そして何千というロボットを運ぶことになるため、個性の上限を探るには打って付けだ。

ただし問題はマイクの言った通り彼女の立場にある。入試案件となると、ちょっとした荷物を運んでもらうのとは訳が違うのだ。

「それに、わざわざ試験中にロボ・インフェルノに掛けた個性を解除する必要はねぇだろ。今まで通り投入まで隠しておけばいい」
「試験中にアイツが会場にいる事が重要なんだよ」
「Huh? そりゃ何でまた」
「そろそろちゃんとこの世界のことを知ってもらわなきゃならん」
――――世界?」

思いがけないトラブルをきっかけに、雄英で保護することになった一人の女性、みょうじなまえ。その出会いは本当に偶然で、この近くにある小さな公園でのことだった。個性を暴発させて一人ぐるぐると公園内を逃げ惑っていたところにたまたま出くわしたのだ。幼少期から個性訓練が課されているこの世界では、彼女のそれは稀な光景だった。

――――そんな個性的に見える!?

個性を抑えろと言った時の彼女の返答。どうにも噛み合わない会話に、その時はパニックになっているせいだろうと思ったが、まさか異世界から来ただなんて誰が予想出来ただろうか。

「話を聞く限り、アイツは随分と平和なところから来たみたいだ。個性のある世界ってもんをその目で見てもらう」
「あー……、確かにちょっとのほほんとした所はあるけどよォ」
「すぐ元の世界に戻れるならいいが、その手立てがない今はここで暮らしていく線も考えておくべきだ」
「まぁ、そりゃ一理ある」

彼女を保護して以来、この世界について教えるべきことは教えてきた。個性とは何か、ヒーローとは何か、――――敵とは何か。しかしいくら説明しても「へぇー、なんだか映画の世界みたいですねぇ」と来た。

いつでも人を殺せる能力を持った人間が、街中を普通に歩いていることの危険性を彼女はきっと分かっていない。この世界で生まれ育った人間にだってその節はあるのだから、彼女がピンとこないのも仕方の無いことだろう。しかし同じ平和ボケでも、そういう教育を受けてきたかどうか、そんな環境で育ったかどうかで天と地程の差がある。彼女にとってこの世界のことは未だフィクションの域を出ないのだ。

「それにみょうじの場合、必ずしも安全が保証されるわけじゃない」
「個性っぽい能力……だもんなァ」

そう、彼女の力は個性とは似て非なるもの。本来なら無個性であるはずの身体、俺の抹消が効かない性質――――もしこれが敵の耳に入ったら、それを目当てに狙われても何らおかしくはない。現に雄英と繋がりのある研究者達がこぞって彼女の身体を調べたがっているくらいだ。

「今はまだ彼女の存在を隠せているが、いつまでも軟禁状態というわけにもいかないしな」
「新学期始まったら自由の身、だっけかァ?」
「雄英に勤めてもらうことが条件だがな。一応みょうじには無個性で通すよう言うつもりだ」
「それもよォ、結構厳しいんじゃねーの?コントロール出来るようになってきたとは言え、個性発現時と同じ状況だろ?暴発しまくる時期じゃねーか」
「だからこそ本人に危機感持ってもらわないと困るんだよ」
「umm...」
「ま、最終的に判断を下すのは校長だ」

そう言ってこの話を締め括るものの、マイクは未だ納得しきれていない様子だった。元々こいつはみょうじが軟禁状態であることにさえ少し同情的だったから。否定こそしなかったのは、状況が状況だからと理解していたからだろう。

その数日後、結局俺の提案は校長に後押しされる形で進められることになった。しかし試験中にロボ・インフェルノを解放するという案だけは失敗の可能性があるということで却下され、代替案として試験終了後の作動停止と共にすぐさま紙化してもらうことになった。試験後に怪我人が出るのを防ぐため、と彼女には説明することにして。

みょうじの個性訓練の様子を見る限り、どちらかというと抑える方に苦戦しているようなので失敗の可能性は限りなく低いとは思うのだが。まぁ、重要すぎる仕事を彼女に担わせるのも酷なので、いい形に収まったのかもしれない。



「やっと終わったー!」

入試前日、全ての準備が終わったと同時にみょうじはその場にへたりと座り込んだ。一日仕事となったのでその疲労は中々のものだろう。

「あの巨大ロボは本当に大丈夫なんですか?絶対死人出るでしょ」
「大丈夫だって言ってるだろ。戦闘するわけじゃないんだ」
「でも踏み潰されたら終わりですよ?」
「動きは遅いから逃げれば問題ない」
「めちゃくちゃだ……」

今しがた設置したばかりのロボ・インフェルノを見上げて、彼女は呆れた表情でぽかんと口を開けた。

「それより身体は大丈夫か?」
「身体?」
「極度の疲れや身体の痛み……何か問題は?」
「疲労感しかないですよ!1日立ち仕事だったんですから!」
「それだけ元気があれば大丈夫だな」
「ほんっと鬼!」

つまりは通常の疲れだけで、どうやら彼女の個性は使用限度もない上に副作用もないらしい。発動型の個性持ちからすればなんとも羨ましい話である。とは言え彼女に限ってはあまり良いことではないだろう。より強力な能力であることが証明されてしまったのだから。少なくとも、さらに研究者達の興味を引いてしまうことは間違いない。

「明日も頼むぞ」
「……本当人使い荒いですよね」
「ああ、それと言い忘れていたが個性を使用する時は誰にも見られないようにな」
「えっ!?それは……無理じゃないですか……?試験終了直後ですよ?」
「セメントスが同行することになっているから隠してもらえ。お前の存在はまだ公になっていないことを忘れるな」
「じゃあ何で私使うんですか……言ってること無茶苦茶ですよ……」

未だ座り込んだままぶつぶつと文句を垂れるみょうじを無視して踵を返せば、彼女も慌てたように追いかけてきた。ほら、やっぱり元気じゃないか。



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