34
八木さんに言われた通り、塚内さんにはあの場で起こったことを洗いざらい話した。その時に分かったことだが、どうやら私の情報は事細かに警察に共有されていたらしい。おかげで随分と話が早かった。
私の個性で紙にしてしまった脳無は、後日警察とヒーロー立ち会いの元で個性を解除した。厳戒態勢の中で行われたものの、個性を解かれた脳無はUSJの時と同じようにすっかり大人しくなっていた。肩透かしを食らった気分だが、暴れられるよりはずっといい。そして紙から戻した後も普通に生きていることが分かって心底ほっとした。いくら脳無とは言え、この手で人(のようなもの)を殺したともなれば受け入れられそうになかったのだ。
それらが終わってようやく私の中で一連の騒動に一区切りがついたのだが、この"神野の悪夢"は未だに世間を大きく騒がせていた。不動のNo.1ヒーローだったオールマイトの引退表明、神野の制圧に駆け付けたベストジーニストというヒーローが大怪我により活動休止、ラグドールさんが個性を奪われたことでプッシーキャッツは活動の見合せ。ヒーローが勝利を収めたとは言え、その代償はあまりにも大きかった。
多くのヒーローが大打撃を受けた今、体制の立て直しが喫緊の課題となっている。それは1番の被害を受けた雄英高校も同じで。
「全寮制、ですか」
「ああ、お前も寮に入れ。敵に存在を知られた今、民間のマンションじゃ心許ない」
「それはまぁ、確かに……。いつからですか?雄英に寮はないし、しばらくは先ですよね?」
「今月半ばには」
「え!?早っ!!」
相澤さんとそんな話をしたのが1週間前。今の家には半年程しか住んでいないというのに早くも引越しが決定してしまった。とは言え私もその方が安心なので彼の提案はとてもありがたいものだった。あの豪邸を手放すのは少し勿体ない気もしたけれど。
▼
脅威のスピードで完成した寮に入ることになったその日。寮は一クラス一棟となっているが、それとは別に教師用の宿泊施設もあり私はそちらに住むことになった。生徒用とは違い共有スペースは設けられておらず、各部屋にキッチンやお風呂も付いている。教師用とは言っても私以外は実際に住むわけではなく、"もしも"の時に学校に泊まれるように準備されたものだからだ。
しかしこの"もしも"が頻発するであろうことは何となく想像できる。なにせ雄英高校は物凄いブラック学校なのだ。家に帰らずそのまま仕事をする先生達をこれまで何度も見てきた。そんな彼らがソファではなくきちんとベッドで睡眠をとれるようになるのは良かったのかもしれない。
「今更だけど、本当広いな〜」
荷解きを終え、気分転換にと寮の周りを散策しながらふとそんなことを思う。グラウンドに体育館に演習施設に体育祭会場etc.…そこへさらに全生徒用の寮が建っただなんて、流石に敷地が広大すぎやしないか。それに建設費や維持費は一体どこから出ているのだろう。お金のかけ方が規格外なんだよな、本当に。
そんなことを考えながらふらふら散歩していると、見知った姿を見掛けた。
「あれ、爆豪くん」
彼は私を見るなり思い切り顔を顰めさせ、チッと大きな舌打ちをした。彼のこの姿勢が敵の前だろうと変わらなかったことは最早尊敬に値するレベルである。私はもう慣れてしまったけれど。
「何でテメーまでここにいんだよ」
「私も寮に入ることになったんだ。学生寮からは少し離れてるけど。今日からご近所さんだね」
「ウゼェ」
早くも会話がぶつりと途切れて、彼との間に沈黙が流れる。この子は本当に人と会話する気が皆無だな。無言がどうにも気まずくて、慌てて話題を探す。そこで彼へのお礼がまだだったことを思い出した。神野で私を守りながら敵と戦ってくれたことにまだ何も言えていなかったのだ。しかし私が口を開くよりも先に「ンなことより」と彼が話を切り出した。
「個性とはちげぇ能力ってなんだよ」
「あ、あー……」
"お前のは個性じゃないんだろ""先生がお前のは個性と違う能力だって"死柄木弔が言っていた言葉が頭を過ぎる。そうだ、爆豪くんもばっちりあの場にいたんだった。
「……言いたくねぇならいい」
「あ、いや、そういう訳じゃないんだけど……私もよく分からないんだよ。分かってるのは本当は無個性のはずの身体だってことと、相澤さんの抹消が効かないこと、あとは――――オール・フォー・ワンが奪えないってことくらい」
「はぁ?抹消効かねぇとかチートじゃねーか」
「チート……まぁ、そうなのかな。でも私の手には負えないよ」
「器がそれじゃ能力がカワイソーだな。つーか学校に言うなって言われてたんじゃねーのかよ」
「えぇ、聞いといてそれ言っちゃう?まぁ、どうせ爆豪くんほとんど知ってるしさ。皆には内緒ね」
「わざわざ言うかよ」そう言って踵を返し、どこかへ行こうとする彼を慌てて呼び止める。「まって」彼の背中に声をかければ、鬱陶しげな視線が投げられた。
「神野で守ってくれてありがとう」
「あぁ!?アイツらがウゼーからやっただけだわ!」
「実際それで助かったしさ。あの森の中でも、USJの時も」
「そんな強ェ個性あんなら自分の身くらい自分で守れや」
「それができたら苦労してない……。でもなんていうかさ、爆豪くん、ヒーロー!って感じだったよ!」
「ウゼェ!死ね!!」
「……反抗期……」
爆豪くんはチッと盛大な舌打ちをして、今度こそどこかへ行ってしまった。「俺ァNo.1ヒーローを終わらせちまったんだよ」そうぼそりと呟いて。
- 34 -
*前 ◇ 次#
top