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「はい!オールマイトの元で働いたという数少ないヒーローの1人!」

突然職員室に響いた大きな声に驚いて、何事かと声のした方を見る。そこには何やら八木さんに掛け合っている様子の緑谷くんがいた。暫く彼らの会話に耳をそばだてていると、どうやらインターンの話をしているらしいことが分かった。八木さんのツテでインターン先を紹介してもらえないか、と。

そもそも実施するか否かで揉めていた校外活動は、昨日の会議(私は参加していないけれど)で折衷案として「実績が多い事務所に限り実施を許可」という形に落ち着いたと聞いた。個人的にはUSJの件や林間合宿の件があったばかりなのだから今じゃなくても、というのが本音だ。私のそれは最早感情論に近いのだけれど。だって敵連合の件がなくとも、職場体験でヒーロー殺しと会敵した時点で「そんな危ないことを高校生に?」と思ってしまうのだ。インターンともなれば更に危険度は増すに違いないし。

八木さんは実施反対派だと聞いていたから緑谷くんのインターン参加にも反対するのかと思ったが、結局は彼の依頼を承諾したようだった。まぁ、学校が許可した以上は突っぱねることもできないのかもしれない。

「本当に行かせていいんですか?」

2人の話が終わり、緑谷くんが職員室から出たのを確認してから八木さんに声を掛けた。

「……聞いてたのか」
「すみません、どうしても気になって。敵連合の2度の襲撃、ヒーロー殺しとの接触――――緑谷くんは毎回それで大怪我してますよね。他の子達もだけど、彼のことは特に心配なんです」
「私としても本当は行かせたくない。だけど緑谷少年はただヒーローを目指してるわけじゃないからね。私が考えるよりも更に先を見据えてる」
「ヒーローの先があるんですか?」
「"最高の"ヒーローさ」
「……そうなる前に潰れちゃ本末転倒です」
「そうならないために私たちがいるんだ。できるだけやりたいことは応援してあげたい」

緑谷くんの志の高さは私もよく分かっているつもりだ。普通なら恐怖を感じてしまうようなところを、軽々と飛び越えていくのを何度もこの目で見てきたのだから。彼をそこまで駆り立てるのはヒーローへの強い憧れか、有り余る程の正義感か。私は時々それが酷く眩しく思えて、そして少し恐ろしかった。



「心操くんもさ、よくこんな状況でヒーロー科目指せるよね」
「……何の話ですか」

その日の放課後、久しぶりに心操くんの訓練に付き合うことになった。個性のコントロールができるようになったことで、ここ暫くは訓練を免除されていたのだ。反対に捕縛布の扱いに苦戦していた彼は相澤さんからみっちりマンツーマン指導を受けていたようだ。今では対象が動かなければほぼ成功できるまでに上達したらしい。

というわけで、今日からは動く対象(=私)への訓練を開始するとのこと。私にとっては自分に向かってくる捕縛布を紙化する訓練である。これがまた難しい。何せボールと違ってその軌道が読みづらいのだ。おかげでもう何度も捕縛されてしまった。ヒーロー科の子達と違い私の動きは酷く鈍臭いから、きっと心操くんにとっては捕縛しやすい対象に違いない。

散々走り回ったせいで開始15分でバテてしまい、早くも休憩タイムに入ったのがついさっき。あれ、これ心操くんの足を引っ張っているのでは?だけど身体が動かないのだからこればかりは仕方ない。体力がないのもそうだけれど、連日の寝不足で少し動いただけでフラフラするのだ。むしろ15分動けただけでも褒めて欲しいくらいだ。

「少し見ない間に随分上達したよね。相当練習したんだろうなって素人目でも分かるよ。でも、その努力ってヒーロー科に入るためでしょ?色々あったの聞いて怖いって思わないの?」
「あー……、敵連合のことですか」
「そう。雄英が全寮制に踏み切ったくらいにはヤバい状況なわけだし」
「まぁ、親には心配されましたけど」

そう言って視線を落とした心操くんに、慌てて「別に反対してるわけじゃないよ。純粋に気になっただけ」と付け加えた。

「……諦める機会は今までもたくさんあったんですよ。敵向きの個性だって言われた時、記念受験かって聞かれた時、ヒーロー科に落ちた時……それでも諦めきれなくて。やっとチャンスが巡ってきたんです。目の前に人参ぶら下げられちゃ走るしかないですよ」
「私だったら雄英に入学できただけで万々歳!って満足しちゃうだろうな。ほら、将来約束されたようなもんじゃない?すごいなぁ、同じ人間と思えない」
「それ褒めてます?」
「めちゃくちゃ褒めてるよ!」

就職活動では年間休日と福利厚生を何より気にした私とは大違いだ。(結局今は中々ブラックな学校で働く羽目になっているのだけれど)

「私は自分が大事だし、人が傷付くところも見たくないし、できるだけ楽して生きたいし……ってごめん、頑張ってる学生にする話じゃないね」
――――いや、そういう考えも分かります。ただ、なまえさんがそういう生活に憧れるみたいに、俺はヒーローに憧れただけです」
「全然違うよ!私のはただ怠惰なだけ……いや自分で言ってて情けないな」
「平和な証拠でしょ。皆がそうやって過ごせるようにするのがヒーローの仕事だし、良いんじゃないですか?」
「……心操くん本当に高校生?」
「なんですか今更……」

心操くんに限らずだけれど、ここの生徒は精神年齢が高すぎやしないだろうか。私なんて大学生になっても単位と預金残高の事くらいしか考えていなかったのに。やっぱり頭が良いと精神的にも早熟なのだろうか。きっとそうに違いない。一般的には私みたいな人が大多数だと信じたい。

――――私も彼くらい精神的な強さがあれば、こんなに悩むこともなかったのかな、なんて。

「……心操くんはさ、強力な個性持ってるでしよ。"敵向き"とまで言われるような。……自分の個性を怖いと思ったことはないの?」

私の問いかけに心操くんは暫し思案する様子を見せたあと「ないですね」とはっきり答えたのだった。

「結局個性を使うのは自分ですから。包丁とかと一緒ですよ、正しい使い方をすればいい。そのための訓練でしょ。……という訳で、早く続きやりましょう」
「……段々相澤さんに似てきたね?」
「ありがとうございます」
「や、これは褒めてない」

やっぱり心操くんは強いなぁ。そう思わずにはいられなかった。同時に、私は到底彼のようにはなれそうもないな、とも。



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