今日の運勢は最悪
今日のヒーロー基礎学では2対2の対人戦闘訓練をするらしい。そのペアと対戦相手はくじ引きによって決められたのだが、どうも私の今日の運勢は最悪のようだ。「……なんでアンタと」
「対人戦闘訓練!熱いっスね!俺こういうの好きっス!」
いかにもやる気満々な様子で拳を握る夜嵐にため息しか出ない。コイツとのペアが最悪な理由は2つある。1つは単純に夜嵐が嫌いだから。もう1つは――――個性の相性が非常に悪いから。
「こんっのクソハゲ!!個性抑えろっつってんでしょ!」
「風で巻き上げたところをアンタが捕まえてくれ!」
「それじゃ駄目だって言ってんの!!」
私の個性、"蜘蛛"。身体のどこからでも蜘蛛の糸を出すことができる。粘着性も強度もあり捕縛にはもってこいの個性なのだが、如何せん大きな弱点がある。強風だ。切れることはないにせよ、風に流されてしまいコントロールが効かなくなってしまうのだ。
今回の戦闘訓練の課題は、事前に渡されたカフスで対戦相手を捕まえること。ただし片方が捕らえられても味方はカフスを解錠することができる。その条件下で先に2人を捕獲した組が勝利となる。私の考えていた作戦は、まず私の個性で捕縛した後に夜嵐の個性によって2人を分断、それからカフスを装着……しかしこのハゲは聞く耳も持たず勝手に戦闘モードに入ってしまった。
確かに夜嵐が風で巻き上げた後(そして個性を解除したのち)に私が捕まえることもできる。ただし問題はここが"屋内"であることだ。
相手は建物の中、私達は建物の外に配置され、先生の合図で訓練開始というのが今回指示された流れだ。夜嵐は合図と共に個性を使って宙に浮かぶと、窓から相手の位置を確認しそのまま攻撃を仕掛けたのだった。
「建物がめちゃくちゃじゃない!」
「壊れてはないっスよ!それにこうした方が早い!」
「そういう問題じゃ……!」
おかげで建物の中は暴風が吹き荒れ、設置された備品たちまで巻き上げられている。それらが壁や窓にぶつからないのは、それだけ夜嵐が正確に個性をコントロールしているからなのだろう。とは言え私の個性が使い物にならないことに変わりはない。
結局私が出る幕はなく、ほとんど夜嵐1人で課題をクリアしたようなものだった。それも他の組に比べかなり早く。というか一瞬で。しかし先生からの講評は「雑すぎる」とあまり良いものではなかった。見たところ微細なコントロールは出来るようだが、それでも彼の個性自体が屋内向きではないのだ。
「2人とももっとコミュニケーションをとれ」
「ハイ!」
「……はい」
全く話を聞かない奴とどうやって?とは思ったものの、渋々ながらも小さく返事をする。先生にじとりとした視線を投げられたがさっと目を逸らした。
ほとんど動くこともなかったのに久しぶりに大声を出したせいで妙に疲れてしまった。「ん゛んっ」と違和感を掻き消すように喉を鳴らす。それと何だか頭がふわふわする。夜嵐との応酬で頭に血が上ったせいだろう。もう二度とアイツと組みたくない、と思うが同じクラスである以上それは無理な話だろう。その事実にげんなりしていると、背後からザッと砂を擦る音が聞こえた。
「悪かった!」
振り向いた先にいたのは夜嵐だった。そして目が合うと同時に向けられたのは、まるで朝の挨拶のように爽やかな謝罪。そんな笑顔で謝られても苛付くだけである。あと距離感と声量が合っていない。つまりはそう、うるさい。
「悪いと思ってなさそうなその顔が腹立つ」
「ごめん!でもこういう顔なんだ!」
「それと声量落として」
「これくらいっスか」
「……やっぱもう喋んないで」
素直にぎゅっと口を閉ざした夜嵐だが、その顔には相変わらず笑みが浮かんでいてイラっとした。きっとコイツが何をしようと腹は立つのだろう。そんな考えが頭の隅にチラついた。なんというかこう、根本的に受け付けないのだ。
エンデヴァーのアンチということもその理由のひとつだが、もちろんそれだけではない。まず存在がうるさい。地声のデカさが耳につく。同じ空間にいたら離れていてもどこからかコイツの声が聞こえてくるのだ。騒がしいのは好きじゃない。気合と根性で生きているようなその性格も合わない。夜嵐が「俺熱いの好きっス!」と言っているのを何度も聞いたことがあるが、暑苦しい奴なんて私の一番嫌いなタイプである。
何かに一生懸命な事を悪いとまでは言わないが、やる気に満ち溢れた奴は総じて視野が狭いのだ。そして排他的。ヒーローにとって大事なことは、いかに冷静に物事を俯瞰の目で見られるか、だと思う。そこに熱とか気合は必要ないというのが私の持論である。
だから夜嵐の言う「ヒーローって熱血だと思うんです!」を私は全力で否定したい。――――したい、のに。腹立たしいことに今のところコイツに勉強でも実技でも勝てたことがなかった。恵まれた体躯と個性、そして類まれなるセンスを持ち合わせていることは認めざるを得ないだろう。それが悔しくて仕方なかった。
コイツなんかに絶対に負けるもんか。そう思って彼をひと睨みしたのちに踵を返す。「あっ反省会は!」なんて声が背中越しに聞こえたが、あの内容に反省もクソもないだろうと聞こえないフリをした。