足して2で割ったら丁度いい
同じクラスのみょうじなまえは、俺にとって少しばかり稀有な存在である。何でもお気に入りにしてしまうタチの俺が初対面にして「こいつは合わない」と生理的というか本能的というか、とにかく直感的にそう思ってしまった人物なのだ。例えば入学初日でクラス全体が浮き足立っている中ただ1人冷めた表情をしていたことだとか、どこか不満げに虚無を見つめていたことだとか。彼女の面様はかつてのトラウマ――――エンデヴァーとの出会いを彷彿とさせた。流石にあのヒーローやその息子である轟焦凍ほど濁った瞳はしていなかったけれど。
まぁそれだけならまだ"悪い先入観"で片付けられたと思う。話をしてみたら違った、なんて事は往々にしてある話だ。とは言え「好きなヒーローは?」の問い掛けに「エンデヴァー」と返ってきた時点で、あぁこれはホントに無理かもしれないと思ってしまった。そして気付けば「アンタとは合いそうにないっス!」と心情を吐露してしまっていた。
今思えば初対面の挨拶としては随分悪手だったように思う。おかげで彼女から"嫌い"を最大限に表現したような視線を食らう羽目になった。友人と話す時はもう少し穏やかな顔をしているから、それだけ俺を嫌っている証拠だろう。不躾な言葉だったことは認める。だけど「合わない」の感情は本物だから訂正するつもりはなかった。
そうはいってもやはり腹の底にもやもやが着いて回るのは気持ち悪くて仕方がない。冒頭述べた通り何でもお気に入りにしてしまう俺はそれらに囲まれて過ごすことが常だったし、言ってしまえば"嫌い"だとか"気に食わない"だとかの感情の扱い方がどうにも分からないのだ。
それならお気に入りにしてしまえばいい。実に単純明快な答えである。同じクラスとして仲良くした方が何かと良いだろうし。それに彼女との距離を縮めるべき理由は他にもあった。
「みょうじと足して2で割ったら丁度いいんだがなぁ……」
担任からしばしば言われるこの言葉。どうやら彼女は俺に足りないものをもっているらしい。その逆も然り。そんなことを言われてしまえば余計に彼女のことが気になってしまうというものだ。
「どういうことっスか?!」
「お前は戦闘に強いが大雑把、みょうじは戦略に長けるが慎重すぎる。暑苦しいのと冷めすぎ、馬鹿正直にひねくれ者……2人とも逆方向にバロメーター振り切ってんだよ。どうしてそう極端なんだお前らは」
後半なんて殆ど悪口では?とさえ思える担任の言葉は、自覚もあるためにグサリと胸に来るものがあった。大きなため息をつく担任を前に「俺そんなに酷いですか……!」と訴える。
「いやまぁ、どれもヒーローとして大事な素質ではあるんだよ。ただ程度ってもんがあるだろ。お前らはうちのクラスの2トップなんだから、もっとこう……なんとかならんのか」
なんとかってなんだ。程度が行き過ぎていることは分かったが、だからと言って"普通"が分かる訳でもない。数秒頭を捻ったのちに導き出した答えは、
「頑張ります!!!」
「……あぁ、うん、……分かってなさそうだな」
と言った具合に即座にダメ出しを食らってしまった。
「そういうところだよ」とぼやかれて、頭にいくつもの疑問符が飛ぶ。ちなみに担任はみょうじにも同じ話をしたらしく、彼女は「水に火になれって言うんですか。蒸発して終わりですよ」と答えたらしい。きっと担任からすれば彼女のそれも「そういうところだよ」なのだろう。
具体的に何をどう改善すべきかはまだ分からないが、目指すべきところは分かった。"俺とあいつを足して2で割ったところ"である。彼女風に言えば「火が水になろうとしたところで鎮火して終わり」なのかもしれないが、きっとやりようはあるはずだ。兎にも角にも、まずやるべきことはただ一つ。みょうじと仲良くなって、もっと彼女を知ることである。そこに何かヒントがあるはずだ。
――――そう思って彼女に突撃したのだけれど。
「これから長い付き合いになるんだから、やっぱ仲良くした方がいいと思うんスよね!」
どうして正論であるはずのこんな言葉でさえ、不快感を主張し尽くした目を向けられてしまうのか。どうにか距離を近付けようとするも、彼女の抵抗が強すぎる。まるで反発する磁石のようだ。これは難儀な課題を抱えてしまったものだと思わずにはいられなかった。そして何より反発しているのはみょうじだけではなくて、俺自身も「やっぱり合わん」という思いが募っていくのもまた事実だった。
「なんだかんだ仲良しだよね」
そう漏らしたクラスメイトの言葉に、思わず自分も否定したくなったくらいには。