気合いは十分

その日のヒーロー基礎学は特別授業として2年生との合同訓練が行われた。その内容は1年生vs.2年生の5人制チーム戦。これは言わば士傑の伝統行事のようなもので、毎年体育祭前のこの時期になると行われる。それは1年生にとっても周知の事実であり、皆今か今かとこの授業を心待ちにしていた。

たった一学年上とは言え、相手はインターン活動で既にプロヒーローと共に現場に出ている者達である。夜嵐はそんな相手と戦えることにワクワクしていたし、みょうじも「自分の実力を知る良い機会だ」と意気込んでいた。それは2人に限らず他のクラスメイト達も同じで。そして全員が全員本気で"勝ち"を捕りにいく気でいた。いくら先輩だろうと負ける気などさらさらない――――と、気合いは十分だったのだけれど。

「……まぁ毎年こうなるよなぁ」

どんよりとした空気が漂う1年生達の中心で、担任がぼそりと呟く。結果は1年生の惨敗で、どのチームも全く歯が立たなかったのだ。まだ入学して間もない彼らは戦闘技術も荒削りな上にチームワークも未熟だから仕方のないことだろう。言ってしまえば、"1年生が惨敗"の結果までが伝統でもあった。

名門士傑高校の生徒ともなれば自分の実力に自信を持つ者ばかりだが、そんなプライドもズタズタにされてしまった。おかげで落ち込みようも半端ではないのだが、皆が情けないやら悔しいやらで落胆するなか全く別の感情を抱く者がいた。夜嵐とみょうじである。

以前のヒーロー基礎学で「もう二度とこいつ(夜嵐)と組みたくない」と心底願ったみょうじであったが、彼女にとっては誠に残念なことに今回もまた2人は同じチームになった。そして再び同じ過程を辿ったのである。

授業中だからと我慢していた2人だったが、解散の合図と共に激しい口論が始まった。

「なんで作戦通りに動かないの!!あんたの個性は味方も動きづらくなるんだってば!!」
「勝手な作戦組んだのはあんたじゃないっスか!それも時間がかかるし回りくどい!機動性が高いメンバーが多いんスから最初から畳み掛けた方が良かったんだ!」
「考え無しに突っ込んだって先輩相手に勝てるわけないでしょ!個人の力も連携も向こうの方が上なんだから!スタートで崩されたらその穴を突かれるのがオチなの!」

2人の応酬に誰かが「また始まった」と言葉を落とした。クラスメイトにとってはもはや見慣れた光景に過ぎないが、2年生達はなんだなんだと興味深そうにその口論に耳を傾けた。2人の担任が頭を抱え大きなため息を漏らしたのは言うまでもない。そして「お前らいい加減に、」と口を開いたその時だった。

「そこまでだ」

注目の的となっていた夜嵐とみょうじの間にとある人物が割って入った。2人のチームの対戦相手にいた毛原である。彼は自身の個性である伸毛であっという間に2人を拘束し黙らせた。

「互いの欠点を指摘し合うのは大いに結構だが罵り合う必要はないだろう。もっと建設的な話をすべきだよ」

大量の毛にぐるぐる巻きにされた2人はその言葉に対し返事をすることも出来ず、ただただ毛原に視線のみを寄越した。夜嵐は心底驚いたような、それでいて「カッケェ!」と言わんばかりのキラキラした目を。それとは対照的に、なまえは分かりやすく迷惑げな視線を飛ばしていた。「なんで私が怒られなきゃならないんだ」とでも言いたげに。

「どちらの言うことも一理ある。夜嵐、君の力は認めるがチーム戦ということを忘れてはいけない。みょうじ、君はあと一歩のところで思い切りが足りない。敵はこちらが躊躇している間に全力で隙を付いてくるよ」

そんな言葉ののち、すぐに2人は解放された。毛原は元気いっぱいの夜嵐の返事と、やっぱりどこか不満げなみょうじの返事を聞いてひとつ頷くと、2人と同じチームだったメンバーにも助言をして回った。それに倣うように他の2年生達も対戦相手の1年生に駆け寄りアドバイスをし始めた。自身の弱さを自覚し弱点を理解することがこの授業の最大の目的なのである。1年生もそれを分かっているから、先輩達の助言に素直に耳を傾けた。

夜嵐とみょうじもすぐに気持ちを切り替えその場に溶け込んだのだが、お互い常に背を向けて分かりやすく拒絶し合ったのだった。



その日の放課後、いつも通り自主練を終えた夜嵐は帰りに飲み物でも買って帰ろうと昇降口へと向かう前に売店に足を運んだ。そうして麦茶をひとつとたまたま視界に入った鮭おにぎりをひとつ買って、さあ帰ろうかと言う時に聞き覚えのある声が耳に入った。

「毛原先輩ならどうしましたか」

声のした方へと視線を投げれば、売店横のイートインスペースにみょうじと毛原の姿があった。みょうじとはつい数時間前に大喧嘩したばかりであり、さらにそれを叱ったのが毛原である。夜嵐は気まずさからそっと2人の死角へと移動する。

「君の戦略は良かったよ。ただ連携がいまいちだったね。もう少しチーム内で意思疎通を図るべきだった」
「……それが難しくて……話聞かない奴もいるし」

自分のことだ、と夜嵐はぎくりと肩を揺らす。訓練では自分なりに正しいと思う行動を取ったつもりだが、少しばかりムキになっていた自覚はある。それはみょうじも同じことで、おかげで互いの主張が激しくぶつかり合って連携どころではなかったのだ。なんて言われるだろうかと、夜嵐はどきまぎしながら耳をそばだてた。

「戦略を味方に通すことだって戦略だよ。チームとはいえ結局は個々の集まりだからね。戦略を武器とするなら、味方の動きまで予測してこそだ」
「………………頑張ります」

苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、彼女がそう答えたことは夜嵐にとってとても意外なことだった。「頑張ります」だなんて、彼女には全くもって似合わない言葉だ。そもそも彼女が誰かに教えを乞う姿すら珍しい。

みょうじはもっとこう――――何事も斜に構え、効率重視の低燃費な人間で、常に淡々としていて冷めた態度を取るような――――そんな奴だと思っていたから。(相性が悪過ぎるせいか自分にはよく感情剥き出しになっているが)

向上心がないわけではないらしい。毛原の言葉をノートに書き留める彼女を少し、ほんの少しだけ見直して、夜嵐はそっとその場を離れた。


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