金曜日の妨害




「今日合コンなの!?」
「声大きいよ」
 華の金曜日、定時三十分前。意識はほとんどこの後の予定に向いている。終わらせるべき仕事は日中に巻きで片付けたから、今はのんびりと来週の仕事を整理しながら同僚と会話を交わしていた。

「珍しいじゃん。何かあったの?」
「大学時代の友だちにお願いされて」
 同僚がデスクに座ったまま私を上から下まで眺めてにんまりと笑う。自分はそこまで乗り気じゃない体を装うには、今日の私はいつもより洒落込んで見えるだろう。

「収穫あったら教えてね」
「言い方。でも何もないと思うよ。聞いた感じ普通の飲み会っぽいし」
「お前らずいぶん暇そうだなぁ」
 私たちの動きがぎくりと止まった。声が飛んできた向かいの席を見ると、いつもと変わらぬ表情のまま尾形主任がデスクに向かっている。

「苗字、頼んでた企画書どうした」
 責めるような語気に怯みながら、マウスを操作して該当のファイルを開いた。
「……えっと、まだ途中ですけど、来週までには提出できるので」
 眉間に皺を寄せた尾形主任が私を睨みつける。
「俺は今日までにあげてこいって言ったんだぞ」
「え!?」
 周りの視線が一気に集中する。仰天してさっきの同僚よりよほど大きな声を張ってしまった。そんなわけがない。今日提出だと伝えられたなら、一昨日頼まれた時に最優先で終わらせている。

「いや、来週までって言いましたよ主任」
「そんなわけねえだろ。月曜には本部に提出するんだぞ」
「でもあの時主任」
「お前ができるって言うから信頼して任せたのに、忘れてた挙句俺のせいとは、傷ついたよ」
 尾形主任がわざとらしくため息をつく。その表情は口ぶりとは裏腹に愉しそうだった。私が期限を勘違いしていたとしても、何でもっと早く言ってくれないのだろう。

 絶望にわななく私に、同僚が気の毒そうに眉を下げている。
「急いでやって、遅れて参加したら?」
 来週に丸一日かけて取り掛かろうとしていた仕事なのだ。急いだところで約束の時間に間に合うわけがない。

「行ったって相手にされねえだろ」
「ちょっと、どういう意味ですかそれ!?」
「お前が終わるまで俺は待つしかねえんだからさっさと手動かせ」
 項垂れた視線の先で、お気に入りのスカートのレースの柄と目が合う。容赦のない尾形主任を前に、私は友達に断りの連絡を入れるしかなかった。




冷たいラブロマンスを抱いて眠る