宇佐美SS
※夢主に外見特徴あります
「何やってるの」
凍てつくような声。振り返ると幼なじみが声に負けない冷たい目でこっちを見ている。寂れたスーパーの一角。手にしているヘアカラーの箱。パッケージには、毒々しいほどの黒い髪のモデルが映っている。
時重が箱を取り上げて棚に戻す。人の覚悟をあっさり折られたようで一瞬反抗したくなったけど、「帰るよ」と言って引かれる手の力強さにかなうわけもなく、黙ったまま歩き続けた。畦道の先に広がる青空。陰湿さなんてまるで無縁のように、爽やかな風が植えたばかりの苗を揺らす。
この景色に似合わない、自分の金の髪がなびく。
後ろから走ってくる自転車の音に、時重の手を振りほどいた。同じ制服を着た女子が走り過ぎると、時重がため息をついて振り返る。
「またなんか言われたの?」
母が生まれ育った町に一人でわたしを連れ帰ったのは、小学三年の時だった。小さな田舎では自分たちと違うものへの忌避の目は多くて、多感な子どもたちを規律によって縛られる学校では、よりその陰口が耳に入ってくる。
「そうだよ。もう数え切れないくらい」
「だからって、染めたら僕が許さない」
「時重には関係ないじゃん」
「あるよ」
時重をこう言い切らせているのは、高校へ上がりクラスが別になった今も、わたしがたった一つの拠り所から離れられないからだ。
小学生の時、わたしをいじめる男の子に石を打ち付けた手が、髪に指を通して滑っていく。この時だけ、自分でも嫌いになりそうな金色が光に透けるのを見つめられる。閉ざされた町の中でさらに閉ざされた、わたしと時重だけしかいない世界の色。
「僕が綺麗だって言ってるんだからそれでいいだろ」
時重の唇が、声にならないわたしの返事を掬うように塞がる。この髪でいる限りわたしはここに馴染むことはできない。時重も分かって言っている。それでもいい、時重さえいればと、わたしだけの光にとらわれていく。その感情はおそらく、恋と呼べるような美しい色はしていないのだ。