高速道路SAでいい雰囲気になった結果
等間隔に連なる照明の下で、なめらかな道路がひたすらに伸びていた。尾形くんがスピードを上げる。隣県へと遠出して一日中遊んだ疲労感の中でも、夜の高速道路を走り抜けていくのは爽快だった。
「11時には家着けるかな?」
「余裕。何かあるのか?」
「今日から始まるドラマ観たいんだよね〜」
「……またあいつかよ」
尾形くんが不貞腐れたように言う。「あいつ」というのは私がハマっている男性アイドルグループの推しのことだ。尾形くんとは違うタイプの彼の話題を出すといつも悪態をつかれてしまう。
「何度も言ってるじゃん。推し活は彼氏への好きとは別のベクトルなんだって」
「じゃあお前、そいつと付き合える可能性があったらどうする」
「それはさ〜〜〜」
「あ?」
「いや、尾形くんとなら尾形くん選ぶけど!」
黙った尾形くんは、その言葉を疑っているようだった。本当はこの車で曲も流したい。でもそれをやったらしばらくはへそを曲げられるだろうから我慢している。
「怒らないでよ」
「怒ってねえよ。……明日の予定は?」
「好きなだけ寝る!」
「最高だな」
「でも選挙には行くよ」
一時間ほど走った後、尾形くんはサービスエリアに寄ると言って左のレーンへと逸れた。この黒のセダンの助手席に乗るようになってしばらく経つ。最初は車高の低いスポーツカーに不安になったけれど、運転が慎重な尾形くんの隣だと安心して乗っていられる。寝ていいと促されても目を閉じないのは、この車を走らせる尾形くんの横顔が好きだからだ。
売店の営業時間は終わったのだろう建物はトイレだけ灯りがついていて、外灯に照らされた広い駐車場には点々と車が停めてある。車を降りると、心地よい夏の夜風が吹いて目を細めた。連休とはいえこの時間にもなると車通りも少なくて、トラックの轟音が過ぎ去った後の静けさに開放的な気分になる。
朝早くから車を走らせてくれた尾形くんはさすがに疲れただろう。あと一時間で家に着くからドラマまで時間がある。トイレから出た私は尾形くんに少し休んでもらった方がいいと思って、煌々と光る自動販売機でコーヒーを買った。
「お疲れ」
「ん」
先に車に戻っていた尾形くんにコーヒーを渡す。エンジンを切った車の中で一息ついている間も、駐車場に停めてある車から降りてくる人はいなかった。
「いつも尾形くんにばかり運転させてごめんね。私が代われればいいんだけど」
「俺はまだ死ぬつもりはねえぞ」
「高速運転したことあるから大丈夫だもん」
「好きでやってるから気にするな」
付き合う前はインドアな印象があった尾形くんは、同棲を初めてからも色んな場所へ連れていってくれる。私にはもったいない彼氏だと思う。好きだな、と胸の中でひとりごちて、コーヒーを口にする尾形くんを見つめる。目が合うと、尾形くんの視線はすぐに熱を持ち始めていった。伸びた手が私の後ろ髪に触れる。すると、膝の上に置いていたスマホが短く振動して、画面を見下ろした私は通知のバナーに目を見開いた。
推しのインスタの更新! 多分ドラマの番宣だろう。今すぐ開きたい。でも、そんな私の心中を読んだ尾形くんがスマホを取り上げてダッシュボードに滑らせた。文句を言うより先に、身を乗り出した尾形くんに唇を塞がれる。絡め取る舌にコーヒーの苦味を微かに感じた。よそ見させまいといういつもより激しい接吻。漏れ出た私の吐息が密室に籠る。車の中でのキスは家の中よりドキドキする。人に見られる可能性があるのもだけど、付き合う前にこの車について楽しそうに話していた尾形くんに、少年のような健全さのようなものを覚えたからかもしれない。
最初にここでキスをした頃よりずっとキスが上手い尾形くんに上顎をやさしく撫でられ、そのざらざらとした感触に脳が痺れていく。これ以上はダメだという理性の中に「もっと」という欲がチラつく。そのタイミングを見計らっていたように、尾形くんがさらに身を乗り出してシート横へと手を伸ばした。倒れていく座席に焦った私は、シフトレバーを超えて私に覆い被さった尾形くんの肩を押す。
「ここでするの?」
「嫌ならやめる」
「ゴムないじゃん」
「カバンに入ってる」
私が本気で嫌がっていたら絶対にやめる尾形くんは、分かっているのだろう。私の身体がすでに熱を持て余していることを。
……ドラマに間に合う? いや、それ以前に、こんなところではさすがに。分別のある大人として躊躇っていると、尾形くんの手がシャツの中へと入って肌を撫でる。
「どうするんだよ」
「見られないかな」
ほとんど仰向けになった体勢で、向こうに止めてある車に視線を向けた。今にも人が出てくるのではないかと意識してしまうのに、下着のホックを外す尾形くんにされるがままになっている。大人が二人重なるには狭い車内。胸を揉みしだく尾形くんの息が肌に触れる。
「見えねえよ」
「でも、あっ」
尾形くんの口角が上がる。胸の先端を弾かれて声を出してしまった私には、もう尾形くんを止めるすべはなかった。指の腹で弄ばれるそこは悦んで硬くなっていく。声を押し殺しながらも下腹部が熱を帯びていき、尾形くんが跨る下で膝を擦り合わせてしまう。
「いつもより感じてるだろ」
「っ、そんなこと、ないもん、んんっ」
「それは『触られるだけじゃ気持ちよくない』ってことだよな」
快感に負けそうな私を意地悪く笑う尾形くんは、服を上までたくし上げた。剥き出しになった胸を外灯の光が仄白く照らす。先端は見たらわかるほどぷっくりと主張している。出てきた人にこんな格好見られたら。正気に戻ったのに、すぐに尾形くんが硬くなったそこに舌を這わせる。
「ひっん、尾形くん、あん、やっぱりダメッ、恥ずかしい」
「いいの間違いだろ」
「んんっ、そんなにっ、あっ、あ」
胸を揉みながら乳首をいじめる尾形くんは、この状況に明らかに興奮していた。私の羞恥を煽ることが愉しくなっている顔。反応をうかがいながら舌の先でそこを転がす。声を抑えられなくて口元を塞ごうとしたのに手を掴まれてしまった。
「尾形くん、声、出ちゃうから」
「我慢できるだろ」
「無理、あ、ああっ、はぁ、やだ、きゅって、やらないで、やんっ」
「ほら、外に聞こえるぞ」
「だって、尾形くんがっ、あっ、んんん」
甘噛みされて背中が仰け反る。熱気のこもった車内で汗ばんでいく身体。こんなこと車でしちゃダメなのに。次々に押し寄せる快感がなけなしの理性を溶かしていく。
尾形くんが胸を愛撫したままスカートの中へと手を滑らせた時、遠くから車の走る音がして、顔を上げると、一台のワゴン車が駐車場に入ってきたところだった。ハラハラして目を離せずにいる私に構うことなく、尾形くんの指が下着の上から割れ目をなぞる。不意打ちの刺激に腰が浮く。尾形くんはこの車の斜め後ろの方向に止まったワゴン車を見ながらも、いやらしく湿ったそこを優しく爪で掻く。
「だめッ、人出てくるから」
「こんなに濡らしといて何がダメだよ」
私の足を開いて膝を曲げさせた尾形くんは、シートの上で恥ずかしい格好になった私を喉をゴクリと鳴らして見下ろす。駐車されたワゴン車からすぐに男性が降りてきた。気が気でない私を煽るように、足の間に割って入った尾形くんが、下着をずらして蜜口に指を埋めていく。
「いつもより熱いな」
「あっ、やだ、ねえ、んん、あ、」
言葉とは矛盾して、中が尾形くんの指をきゅっと締め付けているのが分かる。男性が私たちに気づかずトイレへ入っていく背中を見た尾形くんは、指を前後させて中を掻き混ぜ始めた。卑猥な音が車の中に響く。溢れていく蜜がスカートへ伝い落ちていく最中、シートまで濡らしてしまわないか頭に過った。中で曲がった指に弱いところを叩かれてると、そんなことも考えられなくなっていく。
「尾形くん、そこ、きもちいの、あっ、あ、早くしないれ」
「腰ヘコヘコ動いてんぞ」
「うぅ、だってもう、あ、ああん、あ、それダメっ、ダメ、」
首筋に顔を寄せた尾形くんが耳の中に舌を捻じ入れた。ひゃん、と鳴いて首を逸らす私にしつこく上も下も抽挿されると、格好のことなんて気に留められないほど快感に狂わされていく。
「本当に耳弱いな」
「やっん、どっちも、しちゃやだ、ああ、あっ、」
見つかるかもしれない≠ニいうこのシチュエーションに興奮しているのは私もなのかも。指先がバラバラと動いて奥を叩く。中が縮こまって、絶頂までほんのあと少しという瞬間だった。
急に、尾形くんの指が抜けた。
のぼりつめていた熱が行き場をなくした私は、もどかしさに苦しくなりながら尾形くんを見上げる。
「どうしたの?」
向こうで車のドアが閉まる音がした。男性が戻ったのならここで中断する理由がなおさら分からない。尾形くんは振り返り、ダッシュボードに放っていた私のスマホを取る。
「ドラマ、帰らないと間に合わねえだろ」
21:55の時刻表示。つい今まで頭から抜けていた自分に愕然とする。お預けを食らった今、こんな発情したままの身体で帰ることなんてできなかった。
「意地悪してるでしょ、ひどい」
「悪かった、でもお前だって忘れてただろ。大丈夫だ、今帰れば11時前に着く」
泣きそうな私を宥める尾形くん。でも、その表情は車の中での情事とは別のシチュエーションを愉しんでいることを隠していなかった。怒ってるじゃん! 推し活ではなく自分とのセックスを選ばせようとする尾形くんの思惑に、まんまと乗るのが悔しい。告知が出た時からずっと楽しみにしていたのだ。リアタイして尾形くんにやきもちを焼かせてやる。そう意地を見せようとしたのに、尾形くんが私の上から退こうとすると、引き止めるように手を掴んでいる。
「……したい」
「何だよ」
「最後までして」
「いいのかよ」
ほくそえむ尾形くんがまた私に覆い被さり、膝に硬くて熱いものが押し付けられる。蜜口が早く、早くとせがむようにひくついている。
「いいから、尾形くんのおちんちん挿れてください」
はしたなく自分を求める私に満足したのだろう。尾形くんが、ズボンを脱いで反り勃った怒張にゴムをつける。恥じらいもなく自分で脚を開いた私は、早くそれで自分を突いてほしかった。尾形くんが蜜口に押し付けると、つぷぷ、という水音とともに中にめり込んでいく。
「ああっん」
求めていた快感に溶けた声を漏らす。するとご褒美とばかりに、腰を掴んだ尾形くんに一番奥まで思い切り貫かれた。
「お゙っ!!!」
目の前をチカチカと星が舞う。待ち望んでいた強烈な快感に、つま先をピンと伸ばして全身を震わせている。尾形くんは眉間に皺を寄せて締め付けに耐えていたけれど、すぐに律動を始めた。絶頂が引いていない私は、嵐のような快楽に襲われて悲鳴をあげる。
「あっ、ああん、イッてる! イッてるのに、あ゙っ、ああんっ!」
「これがお望みだろ」
「はひっ、いい、きもちい、すき、おがたくん、しゅき、」
「何が推しだよ。俺と車ん中でヤリまくる方選んでんだろ」
「ごめんなさいい、あっん、またイキそう、あっ、あっ、あっ、ああんっ、ああ」
律動に合わせて、車が軋む音を立てて揺れている。外から見たら丸分かりだろう。でも、しばらくは尾形くんとのセックスに狂う私にわきまえる分別なんてなかった。