三日月国宝指定記念日SS
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「おめでとう……は、なんか違う気もするし。どう言えばいいのかな」
悩みました。なぜなら目の前の彼は元より存分にその価値を認められていて、何なら国宝をも凌駕する、――たとえば天下五剣だとか――そんな希少な称号を、この大きな手のひらに欲しいままにしていたのですから。それでも、もうこの際彼にとってはなんら特別なことではなくても、この気持ちをすっきりさせることが、今日一日を過ごすうえで私には必須でした。
全くもって、なんと言えば良いのでしょう。そもそも日本刀なんて、その辺に散らかしておくのが普通の物ではけっしてないわけで。持ち主にとって宝であることなど、もはや前提のようなものなのです。そしてその持ち主が国となれば、彼が一国を挙げて守られることは道理でした。きっと彼自身も、それを疑ったことはないはずです。
それでも、そんな当たり前のことを、自分たちは日本の宝として三日月宗近を守るのだ、と。わざわざ宣言しよう、したい、――そう考えた当時の人々の心意気が、私にはどうにも愛しくて堪らないのでした。これを彼に伝えたところで、ただの大胆な浮気宣言になってしまうだけで、私の意図するところからは大きく逸れて、――いいえ、そもそもその意図の正体がまだ空っぽのままなのですから、これは逸れるというより、正解とは違う、そう扱うのが正しい代物でしょう。
なにか気の利いた言葉で彼を喜ばせてあげたい。もしかするとこれは、自分に寄せられる多くの人々の愛情を、普段よりいくらかは意識することになるであろう彼の気を、必死に惹こうとする醜い独占欲なのかもしれません。幸い自覚も持ち合わせていました。自分で言うのは少しおかしいですが、よくテレビ番組で耳にする、こいつならやりかねない、というやつです。
ですが、正体が自分の欲求だとわかればあとは簡単でした。私は、ただ単に自分の望むことを彼に『お願い』すれば良いのです。あんなにも悩んだ言葉の続きは、気付けば口をついて出ていました。
「大切にさせてね、三日月宗近」
責任を持ってよろしく頼む、そう冗談めかして笑った彼はやはり何にも代え難く尊いもので、やはりこれを知っているのが私だけでなくてよかったと思いました。いつか訪れるかもしれない別れのときに、彼の安寧を保障してくれる誰かがいたのなら、私にとってこれほど嬉しいことはないのですから。
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