13. 縁は異なもの、味なもの

客間を掃除する頃にはじんわりとした初夏の暑さも相まって、取りきれていない疲れが滲み出していた。
少し無理をすると、視界が回る。

客間の荷物を、職員長屋へせっせと運び出す。
お部屋には、事務作業をされている先生方もいらっしゃるようなので、なるべく静かに。
先生方のように気配を消すなんて事は出来るはずもないので、なるべく走らず早歩きで足音を減らした。
お仕事の邪魔になっていなければいいのだけど。

さて、私が代わりにあてがわれていた部屋は、本来ならお客様をお招きする所だ。
かなり気を張って二日間室内にいたが、どうしても髪や服の繊維は落ちてしまう。
ちょっと小言の多いお客様なんかが来たら大変だと、細かくチェックしながら掃き掃除を進め、指差しで確認しながら最後に障子を閉めた。

さて、次の場所を。

「なまえさーん!来客があったのでご説明します!」

遠くからバインダーを掲げて走ってくる小松田さんの姿。
そんな都合がいいこと、本当にあるんだ。
正門へ向かう後をついていけば、若い男の子が腕を組んで立っていた。
えらく顔立ちの整った子だ。

「小松田くん、突然理由も言わずに待っていてくれとだけ言って立ち去るのはやめてくれないか」
「あれ?新人研修させてくださいって言いませんでしたっけ?えへ、すみません」

ヘラヘラと笑う小松田さんを見て、額にうっすら青筋が見える。
昨日の吉野先生を見ているみたい。
でも昨日と違い、待たせてしまったのは私が原因かと気付き、慌てて謝罪に入った。

「申し訳ありません、私の指導のためにお待たせしてしまったようで。先日より事務員として働いております、みょうじなまえと申します。すぐに来客のお手続きさせていただきますね」
「そういうことでしたか。きちんと説明しない小松田くんが100%悪いだけですので、貴方はゆっくりで構いませんよ。それにしても君が先輩、ねぇ」

小松田さんは意味ありげに呟かれた言葉をガン無視して、私に入門表と出門表を見せて手順を説明している。
本当に聞こえていないのか、聞こえているけど深い意味はないと捉えているのか。
どちらであっても、小松田さんらしい気もする。

「なまえさんが外に出かける時にも書く必要があるので、忘れないようにしてください!そしてこれは担当者の名前入りなので、なまえさんの分はこっちの紙です」
「分かりました、紙の用意までありがとうございます。すみません、長らくお待たせいたしました。担当みょうじの入門票に、サインいただけますか?」

この二つに関しては、一週間前と一昨日、私がここに来た時にも書いたので扱い自体はなんとなく分かっている。
ほとんどが理解していた通りであり、すんなりと頭に入ってきた。
ややこしく無くてよかったと、ほっと安心すると同時に、青年をこれ以上待たせるのは失礼だ。

受け取ったバインダーには小松田さんの入門表が挟んであったため、私の名が書かれた用紙に差し替えて、目の前の青年に差し出した。
やけに手慣れた入門手続きと、先ほどまでの小松田さんとの話し振りから、何度かここに訪れている人のようだ。
馬借便にも商人にも見えないが、一体どなたなんだろう。
もしかしたら、この人も忍者なのかな。
返された入門表を受け取れば、「山田利吉」と綺麗な字が記されている。

「なまえさん、この人は利吉さんで、山田先生の息子さんです。そしてフリーの売れっ子忍者で、みんなの憧れの的です!」
「まぁ、そうだったんですね。でも小松田さん?そういうの、あまり大きい声で言わない方がいいかと…」

いくらここが学園内とはいえ、私たちが立つ場所は正門入ってすぐ。
仮に学園の前を誰かが歩いていたら、話は筒抜けだ。

「後輩の彼女の方がしっかりしていてはダメだろう」

ため息をついて頭を抱える山田さん…これだと山田先生と被ってしまう。
小松田さんを倣って、私も利吉さんとお呼びすることにしよう。
利吉さんは、私がここに呼ばれてからずっとこの調子であった。
きっと振り回された経験がおありなのだろう。

「お引き止めしてしまって申し訳ありません。山田先生なら、恐らく授業前でお部屋にいらっしゃると思いますよ」
「ご丁寧にありがとうございます。大変でしょうが、頑張ってください」

労いの言葉に、とりあえず会釈をする。
それは小松田さんが先輩という点でなのか、事務員の仕事がなのか。
小松田さんのためにも、後者と受け取っておこう。

あ、いけない、掃除が終わりきっていない。
このままではお昼を跨いでしまう。
客間の掃除に時間をかけ過ぎてしまったかも…。
とりあえず、客間周辺の落ち葉を集めて、一度お昼をいただくことにした。

まだ胃は不調だし不快感もあるけれど、動き回っているおかげか多少なりとも空腹を感じている。
そもそも朝食をそこまでしっかり食べていないのも、空腹感の原因かもしれない。
食べられないよりは食べられる方が、もちろん体にいい。

事務室で書類の作成にあたっていた吉野先生の元へ、小松田さんと戻る。
掃除の進捗報告と、一度休憩がてら昼食を挟んでも良いかの確認を取って、午前の業務が終了となった。

食堂へ行こうと誘ってくれた小松田さんに、申し訳なく「別の用を済ませてから食堂に向かう」と伝え、私は用具倉庫へ向かった。

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